マーケットタイミングを
狙った投資は失敗に終わる

加藤 でも、どうしてそんなに簡単に乗り換えてしまうのでしょう。

中野 それは、販売金融機関が乗り換えさせているからではないのですか。

加藤 もちろん、そうなんですが、次々に新しいファンドに乗り換えることが投資収益をあげることにつながらないということを、もっと投資家が理解して然るべきだと思うんです。その情報が全く投資家に伝わっていない。

中野 もちろん、既存の投資信託会社や販売金融機関が、それを投資家に言うはずがありませんよね。さっき加藤さんがおっしゃったように、それは彼らにとって自己否定につながりますから。

加藤隆(かとう・たかし) バンガード・インベストメンツ・ジャパン株式会社 代表取締役 1977年東京銀行入行。1984年より資産運用業に従事。その間、BOT・トゥーシュ・レムナント(ロンドン)でユーロボンドのポートフォリオマネージャー、インターセック・リサーチ日本駐在代表、シュローダー・ジャパン営業担当役員、ABNアムロ・アセット・マネージメント・ジャパン代表を歴任。2003年から2年余り金融業界を離れ、古民家再生、田舎暮らし、自然農などの普及に専念。2005年4月より現職。現在の目標は、投資家本位の投信事業の発展と、自然循環型生活スタイルの普及に貢献すること。週末には、千葉県鴨川市で築150年余りの里山古民家を修復中。

加藤 投資家が頻繁にファンドを乗り換えることによって、リターンを向上させるためには、Aファンドはそろそろ高値に来たから、それを解約して利益を確定させ、次に、これから値上がりする可能性のあるBファンドに乗り換え、それが実際に値上がりするというように、売り時と買い時のタイミングが見えていることが前提条件になります。

 でも、それが分かっていれば、誰でも大金持ちになれるんですよね。実際には、そんなにうまくいくはずがない。

 これまで保有していたファンドで値上がり益が得られたとしても、次に乗り換えたファンドも確実に値上がりする保証はありませんし、逆に大きく値下がりしてしまうケースもある。

中野 確かにそうです。

加藤 マーケットタイミングを狙った投資は、当たることもあれば、外れることもある。それを繰り返していても、何も生み出しません。理論上はプラスマイナス0です。しかし実際は、人間の心理は弱いもので、「値下がりしてきたものは売りたくなる、値上がりしてきたものは買いたくなる」という傾向があります。

 行動経済学的にも立証されていることなのですが、これを繰り返していると、安いところで売り、高いところで買うことになる可能性が高いのです。さらにそのうえ、割高な手数料を毎回取られて、確実なマイナスリターンを積み上げることになる。つまり、やればやるほど投資収益率が悪くなる可能性が高いのです。

中野 まさに「敗者のゲーム」(チャールズ・エリス著の投資に関する古典的名著)ですよね。

 ギャンブルにたとえるのが正しいかどうかの問題はありますが、たとえばパチンコで胴元が取る割合は投資した額の15%、競馬は30%です。宝くじに至っては何と54%が差し引かれています。これは、言うなれば販売金融機関に対して投資家が払っている手数料のようなものです。

 この手数料、いわゆるコストが大きくなればなるほど、勝てるゲームにも勝てなくなる。まさに敗者のゲームです。つまり次々に別のファンドに乗り換えている限り、いつまで経っても資産形成はできません。

加藤 きちんと資産形成をしたいと思うのであれば、まずマーケットタイミングは狙わないこと。そして長期投資を心がけること。これが鉄則ですね。

次回の更新は9/24です。


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