安倍晋三総理大臣は、10月1日に、消費税率を2014年4月から8%に引き上げると正式に表明した。それと同時に、「経済政策パッケージ」を閣議決定した。ここでは、5兆円規模の補正予算案を編成することに加え、収益を賃金で従業員に還元する企業に税制で支援する「所得拡大促進税制」を拡充する案を表明した。
賃金が政策課題になった
「経済政策パッケージ」で重要なのは、つぎの2点である。第1は、賃金が重要な問題だと認識されたことだ。
これまで政府は、物価を上昇させるとしてきた。物価は円安で上昇している。また、消費税が増税されれば、物価はさらに上がる。しかし、それは、実質賃金を減らし、生活を貧しくするだけだ。賃金が上がらなければ、経済政策の目的は達成されたことにならない。この当然のことが、やっと認識されたのだ。
第2は、金融緩和では賃金上昇を実現できないことが認識されたことだ。このため、法人税減税で賃金を上昇させようとしたり、政府が企業と直接交渉しようとしている。
こうした政策が打ち出されるのは、つぎのような基本的認識があるからだろう。すなわち、「企業は利益を出しているのだが、それを内部留保という形で貯め込んでしまい、設備投資にも回さないし、賃金にも回さない。利益が設備投資や賃金に回れば、経済の好循環が始まる」というものだ。
しかし、この認識は誤りだ。こうした認識に基づいて政策を行なっても、効果は期待できない。
賃金は全体で低下しているが、製造業では上昇
賃金に対して経済的に適切な政策を行なうには、賃金下落のメカニズムを知る必要がある。一般に言われていることの中には誤った認識が多いので、それを正す必要がある。
そのためには、現実のデータを見ることが不可欠だ。以下では、いくつかの統計からそれを見ることにしよう。
最初に、「毎月勤労統計調査」の賃金指数のデータを見よう(現金給与総額、事業所規模5人以上、就業形態:一般労働者、2010年平均=100)。
調査産業計で見ると、図表1に見るように、賃金は1990年代の末がピークであり、それ以降は、大まかな傾向として見れば、最近に至るまで低下を続けている。1997年度の104.4から2012年度の99.9まで、4.3%の下落だ。