2003年の5月には、「健康増進法」という法律がスタートしました。

 この中では、企業が従業員のココロを癒すのは当たり前のこととして書かれています。

 こうした流れを受けて、ココロのケアの考え方そのものも、ここ数年で少しずつ変わってきています。

 以前は、「精神衛生」という言葉が一般的でした。これは、病気になってしまった一部の社員たちが対象で、彼らが病気を克服し、立ち直るにはどうすればよいかを考えるものでした。

 それに対し、最近では「精神保健」という言葉が広まってきています。これは従業員がうつなどココロのトラブルになるのをいかに予防するか、または、うつになってしまった人がそれ以上悪化させるのを防ぐことを目的にしています。

 これからのココロのケアは、この「予防」が最大のキーワードなのです。

「0(ゼロ)次予防」
がキーワード

 私たちココロの専門家が、予防という言葉を使うときには、4つに分けることができます。

 まず「1次予防」。これは、元気な人が病気にならないようにしたり、元気な状態を持続させたりするものです。これは要するに、病気にさせないということ。みなさんが予防と聞いてイメージするのがこの1次予防でしょう。

 続いて「2次予防」。これは、すでに病気になってしまった人を悪化させないようにします。

 「3次予防」は、一度病気を克服して職場に復帰した人が、病気を再発させないようにすることを目的にします。

 そして、もっとも重要なのが「0(ゼロ)次予防」です。

 1次から3次までは、従業員本人に対するケアを対象にしています。それに対し、0(ゼロ)次予防は、従業員を心の病気にしないために、組織としてマネジメントすることを指します。つまり、従業員が働きやすい「環境」を整えて、従業員をいつも元気にキープするということです。

 たとえば、窓の小さい暗い部屋で1日中座ったまま仕事をしていれば、集中力や注意力も落ちるし、病気にだってなってしまいます。

 高層ビルの中や地下にオフィスのある会社には難しいことかもしれませんが、たとえば理想的な姿として、窓が大きくて光がたくさん差し込み、風通しもよく、ときどきコーヒーの香りが漂うような環境に変えるとともに、ココロのケアの啓発を進め、いつでも気軽に相談できる雰囲気にする――このように、従業員にとって気持ちのいい環境を整える「0(ゼロ)次予防」は、これからの企業にはますます重要になっていくでしょう。

すぐに辞めていく
若手社員たち

 会社を辞めてしまう人のうち、入社2、3年目の若手社員の確率がとても高いのを知っていますか?

 たとえば、システムエンジニア(SE)を希望する若者の中には、どちらかというとコミュニケーションが苦手で、機械と会話するほうが好きという人が多くいます。