糸井重里
糸井重里
1948年、群馬県生まれ。「不思議、大好き。」「おいしい生活」などのキャッチコピーで一世を風靡。98年に「ほぼ日刊イトイ新聞」を開設。「ほぼ日手帳」など人気商品も多数手がける。『悪人正機』『言いまつがい』など著書多数。

 ダイヤモンド・オンラインの読者のみなさま、はじめまして。イトイです。

 僕はコピーライターや「ほぼ日刊イトイ新聞」の仕事を通して、ずっと「言葉」と付き合ってきました。関わりが深いからこそ、言葉に悩むときがあります。でも、僕には灯台のように目印になってくれる人がいます。

 吉本隆明さんって知っていますか?

 吉本さんは、1924年(大正13年)生まれの83歳。世間から、「戦後思想界の巨人」と言われる、詩人・文芸評論家です。1968年に発行された著書『共同幻想論』(河出書房新社刊)はとても有名で、「国家とは何か」を説いたこの作品は当時ベストセラーとなりました。40代以上の方であれば、手に取ったことのある方も多いのではないでしょうか。

 でも、「吉本隆明って誰?知らないよ」という人もいると思います。そういう人には、「作家・よしもとばななさんのお父さん」といったほうがわかりやすいかもしれません。

吉本さんは僕にとって
「言葉の灯台」

吉本隆明
吉本隆明
1924年、東京都生まれ。「戦後思想界の巨人」と呼ばれ、1968年に発行した著書『共同幻想論』は当時のベストセラーに。詩人・文学評論家でありながら、社会、政治、宗教まであらゆるジャンルを扱う。著書に『ハイ・イメージ論』『超「戦争論」』など多数。

 しかしなぜ今回、僕はこの連載で吉本さんを取り上げようと思ったのか――。それは、僕にとって吉本さんが「ホンモノの言葉」を与えてくれる人、「言葉の灯台」のような人だからです。かれこれ25年のお付き合いになりますが、年々その想いは強くなっています。

 僕の考え方のすべての基になっているのが吉本さんである、といっても過言ではありません。何かに迷ったとき、僕は吉本さんのところに相談にいきます。「文芸評論家の話なんて何の役に立つの?」と思う人もいるかもしれません。でも、違うんです。吉本さんの言葉には、いつも“新しい何か”が含まれています。未来がわかるその一方で、100年も1000年も昔から、ずっと変わらずに来た“普遍的なもの”までも感じることができる。本当に“大切にしなければならないもの”がわかるんです。

 テレビや新聞、本に雑誌、そしてインターネットで僕たちは毎日、大量の言葉を浴び続けています。その中で僕らは言葉を“流す”ことに慣れ、大切なものを見つけることができなくなっているのかもしれません。吉本さんの言葉にはそれを気づかせてくれる力があります。けっしてエラそうな言葉ではなく、あいまいなものをすべて吹き飛ばしてしまうような“爽快感”まであるんです。だから面白いし、気持ちがいい。みなさんにもその感覚を味わってほしいと思います。