戦略のパラドックスに陥らないために、「不確実性」をどうやって回避すればよいのか――。
これまで分析してきた各業界にとって、これは企業の存亡を決しかねない重大なテーマだった。しかし、今回採り上げる通信業界では、短期的に見ればリーマンショックの影響はそう大きくない。
もちろん、油断はできない。経済環境の悪化によって事業展開のスピードが鈍くなれば、中期的な競争環境が変わる可能性があるためだ。
今後通信事業者は、自由度を確保して事業を前進させる「財務的な体力の蓄積」が必要になる。
経済恐慌による事業発展の停滞は
中長期的な競争の構図を変える?
まず、通信業界が置かれている現状の分析から始めよう。
前述のように、通信業界は国内外とも経済恐慌の悪影響を大きく被っていない。企業活動や消費生活における情報流通や商取引には、ITやインターネットなどが深く入り込んでいるからだ。今やそれらの業務や手続きにおいては、「通信」が必要不可欠な社会基盤になっている。
しかし、瞬間的インパクトは小さいものの、ミクロレベルでは事業収益への影響が出始めていると思われる。経済恐慌の影響を受けた企業や消費者がモノやサービスに対する「経済性」の関心をより強め、それが通信サービスにも及んできていると考えられるからだ。
では、今後通信業界にはどのような「不確実性」が横たわっているのか。今回の不況が通信事業に大きなインパクトを与えかねないシナリオを、いくつか考えてみよう。
1つ目のシナリオは、顧客のコスト削減志向の強まりによって、顧客維持が難しくなるケースだ。