歯科インプラントは
高度な技術を要する治療
長年、ガタガタしている入れ歯でだましだまし暮らしていた主婦中山由実さん(仮名・65歳)は悩んでいた。年明け早々に決まった一人娘の結婚式。娘にとってはもちろん、母親にとっても一世一代の晴れ舞台。その時までにこの落ちつかない噛み合わせをインプラントで一気にスッキリ治してしまおうかどうか――。
インプラント治療を多くの歯科医院で受けられるようになって久しい。患者数の増加と共にトラブルの声も聞かれるようになり、正しい知識をもって治療に臨むことの重要性が指摘されている。
インプラント治療は、まず金属でできた人工歯根(フィクスチャー)を顎の骨に埋め込み、土台をつくる。そこに支えとなる支台(アバットメント)を装着し、上の人工歯を連結させて失った歯の代わりとするものだ。
治療そのものの仕組みは簡単だが、顎の骨の形状や深さ、骨の状態などを把握して人工歯根を正確に埋め込まなければならないため繊細な技術を必要とする。
治療前に詳細な検査を行い、患者の状態に合わせた治療を進めないと、インプラントと骨の定着が難しくなったり、噛みにくさが生じたりすることもある。インプラント治療の成功は、患者自身がもつ深い知識と高度な技術のある歯科医院を選択することが重要なポイントといえる。
インプラントの利点と
基礎知識
歯科インプラントは骨にしっかり埋め込まれているため、ぐらついたり外れたり、違和感が生じたりすることもない。天然の歯と同じような噛み心地を取り戻せて、食べ物の味も変わらず美味しく食べることが可能である。毎日の清掃も通常のブラッシングでよい。
顎の骨に人工歯根を埋め込むのだが、この素材であるチタンという金属は骨と結合する「オッセオインテグレーション」という特性をもつことで知られている。
◆メリット
●食事が美味しくなる
天然の歯と同様にしっかり噛めて違和感もないうえ、味覚が落ちることもなく食事を美味しくとることができる。
●発音がきれいになる
正確な設計で噛み合わせをしっかり整えるインプラントは、空気がもれることもなくきれいな発音を再現できる。
●表情が豊かになる
歯が抜けると歯茎や骨の吸収が始まり、表情筋もやせてしまうので口元のシワやたるみが目立ってくるが、インプラントは顎の筋肉をしっかり使って噛むので組織の退縮が起こらない。また審美的にも優れた人工歯を入れるので笑顔に張りが出てくる。
●ほかの歯が犠牲にならない
ブリッジは歯が抜けた部分の両隣にある健康な歯を深く削って土台にし、橋をかけるように人工の歯を被せる。部分入れ歯は金具を隣の歯に装着して入れ歯を固定するので、支える歯に負担がかかる。インプラントは自分の顎の骨を土台にするため、健康な歯を犠牲にしなくてもよく、残存する天然歯の健康を保てる。