読み返しで確固たる自分をつくる
ノートに書いた読書ノート、つまり抜き書きや自分のコメントを読み返すことは、ときには本を再読するのと同じくらいの効果があります。本の再読と言っても、はじめて読んだときと同じだけ時間をかけて読んでいくケースは少ないでしょう。だったら、ノートで十分というケースもあります。つまり、
・軽く振り返りたい場合=読書ノートの読み返し
・もっと思い出したい場合=本のチェック箇所の参照
・ゼロから頭に入れ直したい場合=本そのものの再読
と、必要に応じて、参照のレベルを上げていけばいいでしょう。再読においては、本を読むか読書ノートを読むかというかたちはどうあれ、折に触れて、本のことを思い出すことが大事だと思います。
そうやって「何度もその本に触れている」という認識が自信につながっていきます。読書が確固たる自分を養うためのものとするならば、読書ノートはそれを補強するシステムになると言えるでしょう。
一つの本について、読書ノートで読んだ体験を参照するほか、ときには本棚から本を取り出してきて再読してみる。こういった積み重ねが本で読んだ内容を自分の血肉とすることにつながります。
ある批評家は「折に触れて再読する本が5冊あれば、立派な読書家だ」と言いました。新しい本を読むのは、ただ楽しむためだけではなく、繰り返し再読したり丁寧なノートをつくったりするような「個人的名著」を見つけるための行為でもあるでしょう。
再読の効果は、記憶への定着だけではありません。繰り返し本に触れることによって、自分と本との物語ができてくるのです。1冊の本を「場所」とするなら、読書ノートはその場所で撮った「写真」とでも言えばいいでしょうか。同じ場所でも、足を運ぶたびに撮る写真は微妙に変わるし、過去に撮った写真でも、時間がたてば受ける印象が変わったりします。
読書ノートを読み返したり、読書ノートをもう一度つくったりすることは、自分だけの「その本の読み方」をつくり出すことにつながります。本当に気に入った本があれば、数年おきに読み返して読書ノートをつくり直してみるのもおすすめです。
僕はジョージ・オーウェルの『1984年』が好きで、読み返すたびに読書ノートを取っています。そのせいで、新聞記事を読んだりすると、「『1984年』のあのシーンみたいだな」という具合に、すぐ本が頭の中で参照されるようになりました。
こういう本は、他にも3冊ほどあって、何らかの現象を考察するときの自分の足がかりとなっています。現実の問題について、「あの本ではどう描写されていたか」「あの著者はどう言っていたか」と数歩退いて考えてみることで、近視眼的な結論になるのを避けられるのです。(最終回へ続く)
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1981年大阪府生まれ。同志社大学文学部でジャーナリズムを学んだあと、出版社、新聞社の記者を経て『情報は1冊のノートにまとめなさい』で著作デビュー。独自の情報整理術や知的生産術がビジネスパーソンを中心に支持を集め、第2弾『読書は1冊のノートにまとめなさい』、第3弾『人生は1冊のノートにまとめなさい』と合わせたシリーズは累計50万部を超えるベストセラーとなった。
ジャーナリストの経験を活かし、ウェブや雑誌のライターとして活動するかたわら“ノート本作家”として、メディア出演・講演などでも活躍中。仕事に活かせるノートや文具の活用法、本とより深く付き合うための読書法、人生を充実させるライフログの技術、旅行や行楽を楽しむための旅ノート・散歩ノートの技術など、活動の幅は広い。趣味は古墳めぐりと自然観察。ついでに写真撮影。仕事だけでなく家庭や趣味でもノートを使いこなすライフスタイルは、NHKやTBSでも放送され反響を集めた。
その他の著書は『旅ノート・散歩ノートのつくりかた』『知的生産ワークアウト』『「処方せん」的読書術』『新書3冊でできる「自分の考え」のつくり方』など多数。
著者エージェント:アップルシード・エージェンシー
http://www.appleseed.co.jp