北川マジックは「周期表」に
新しい元素をつくっている?
実際、北川宏教授から直に説明を聞き、その実験結果を見ていると、少し不思議な印象を受ける。一言でいうと、「まったく新しい元素がつくられている」ような気持ちになるのである。
北川宏教授はよく、「AとCの元素を足して、その真ん中の元素Bの機能を生み出す」という説明をしているが、それよりもA~Cの間に、あたかも「まだ人類に知られていないB以外の元素がある」ような錯覚に襲われる。たとえば、「A+C」によって、真ん中の元素Bが知られていなかった新しい触媒機能を発揮したり、考えられないような超低温度下でも反応する機能が生まれたり……ということだ。
「元素戦略」の構想段階(箱根会議=次節)でも、「表面の元素の並びをしっかりコントロールすることで、知られていない機能が生まれるのではないか」といった議論はされていたのだが、まさか、いきなり実現のメドがつくとは、玉尾氏にとっても驚きだったようだ。たとえば、鉄の表面に何か違う元素を加えてまったく錆びない性質をもたせるとか、プラチナ(白金)並の触媒機能をもつ新しい物質をつくるようなことをはじめから狙える。そうなると、現在、クルマの排気ガス処理には、高価で希少なプラチナ、パラジウム、ロジウムが使われており、間もなく市販される燃料電池車の電極触媒にはプラチナが必須であるが(燃料電池車1台に必要なプラチナは100グラム=30万円)、他のありふれた元素で代替も可能となる。
北川宏教授の「元素間融合」の研究を見ていると、「現代の錬金術」をまざまざと見せつけられているようである。
実は、「元素戦略」に関するプロジェクトでは、このような画期的な研究が目白押しである。それらの事例に具体的な事例については、著書の『元素戦略』にまとめたので参照していただきたい。
世界に先駆け、2007年に経済産業省、文部科学省が協調して「元素戦略」の関連プロジェクトを同時にスタートさせた。これは霞ヶ関では画期的なことで、「明治以来、省庁を超えた初めての共同プロジェクト」として話題となった。さらには、JSTにおいても2010年より元素戦略プロジェクトが始まり、2012年からは文部科学省がさらに巨大なプロジェクトを進行させた。その背景には、先ほど述べたように企業にとって付加価値を生む「先端機能」の多くに希少元素が使われ、今後、その需要が爆発的に増大すること、ところがその需要に反して供給が中国等の限られた国にほとんどを依存し、きわめて不安定なことが挙げられる。
しかし、実はそれら政治的・産業的な背景とはまったく別の世界で「元素戦略」が最初に提起され、進められてきた。その発端となったものこそ、「箱根会議」であった。
次回は12月11日更新予定です。
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