「元素戦略」が資源問題を根本から解決する

 そこで世界に先駆けて進められている逆転のプロジェクトこそ、「元素戦略」プロジェクトである。これは一言でいえば「現代の錬金術」であり、魔術のようにさえ思える。産業界にとって必要なジスプロシウム、セリウム、タングステンをはじめとするさまざまな「希少元素」を使うことなく、鉄、アルミニウム、亜鉛などの一般的な元素(汎用元素)で代替しよう、あるいは徹底的に使用量を減らそう、さらにはこれまでまったく知られていない機能を元素から引き出そう……という、壮大で挑戦的な試みである。

 もちろん、単純に「希少元素→汎用元素」とはいかない。「錬金術」は昔も今も、不可能だからだ。しかし、視点を変えてみるとどうだろう。つまり、「元素」そのものを錬金するのではなく、「製品に必要な希少元素の特定の『機能』を別の元素で置き換える」という意味での錬金術であれば、決して不可能とはいえない。すでに「元素戦略」プロジェクトでは、サイエンスの歴史を書き変えるような驚くべき研究成果が相次いで起きている。科学を専門としていない方々にも、きっと「ワンダフル!」と驚いていただけるような、非常に心躍る成果が続出しているのだ。

 この「元素戦略」プロジェクトが成功すれば、日本は資源についての不安を永久に払拭できるだけでなく、新しい技術の獲得によって一挙に「資源大国」にもなりうる。ふんだんにある元素、安価な元素を使って、最先端の製品開発に没頭できる……。

 いや、日本が資源大国になるかどうかは、実は本当の到達点ではない。これまで人類はずっと不幸な紛争を起こし続けてきた。その一つの要因は、「資源争奪」である。「元素戦略」はこの不幸な紛争を永遠に追放できるかもしれない。日本の科学の力で、世界の平和に貢献できるのだ。

 日本の科学者・研究者が、あるいは企業の技術者や官公庁の役人たちが一致協力し、どのような方策で「元素戦略」を進めているのか、迫り来る「元素危機」をどういう手段で乗り越えようとしているのか、国策プロジェクトとしてどのような策を講じながら進めているのか──その全貌を知っていただきたいと思う。

世界の科学界を震撼させた「元素間融合」

「元素戦略とは何か」──その概略を説明する前に、いきなりだが、「元素戦略」の具体的な事例を一つ紹介しておこう。そのほうが、元素戦略ではどんな研究をめざしているのか、そのイメージをつかめると思うからだ。以下の内容を理解すること自体はむずかしくないと思うが、「えっ?まさか!」と思うような研究が展開していることを体感されると思う。

 例としては、北川宏・京都大学教授の「元素間融合」の研究を紹介する。この研究は世界中の化学者を驚嘆させた、比類のない試みである。日本化学会の会長・玉尾皓平氏もさすがに目を丸くして驚き、玉尾氏自身が名付け親を買って出て「元素間融合」と付けた。