英語のレベルは5段階、ただし4と5の間は非連続

斎藤 そんな話を自由闊達にやっていますが、人材育成の話をしていると、やはりグローバル化というのが非常に大きなテーマになりますね。

河合江理子(かわい・えりこ)
[京都大学国際高等教育院教授]
東京都生まれ。東京教育大学附属高等学校(現筑波大学附属高等学校)を卒業後、アメリカのハーバード大学で学位、フランスの欧州経営大学院(INSEAD)でMBA(経営学修士)を取得。その後、マッキンゼーのパリオフィスで経営コンサルタント、イギリス・ロンドンの投資銀行S.G.Warburg(ウォーバーグ銀行)でファンド・マネジャー、フランスの証券リサーチ会社でエコノミストとして勤務したのち、ポーランドでは山一證券の合弁会社で民営化事業に携わる。
1998年より国際公務員としてスイスのBIS(国際決済銀行)、フランスのOECD(経済協力開発機構)で職員年金基金の運用を担当。OECD在籍時にはIMF(国際通貨基金)のテクニカルアドバイザーとして、フィジー共和国やソロモン諸島の中央銀行の外貨準備運用に対して助言を与えた。その後、スイスで起業し、2012年4月より現職。

河合 グローバル化は避けて通れないと私も感じています。

斎藤 製造業に比べると当社はまだグローバル化の取組みは遅れていますが、私の印象では、国内でセンスを発揮できている人は、そのまま海外に出ても十分に活躍できていますね。

河合 それは、語学力がない人も同じですか?語学力がないと難しいのではないかと思いますが。

斎藤 基本はビジネスのセンスだと思いますが、「たかが英語、されど英語」ということだと思います。英語の話になると、文部科学省の板東久美子さんの講演資料を見ていたら、彼女は、英語のレベルを5つに分類していました。「海外旅行会話レベル」が第1段階、第2段階が「日常生活会話レベル」、第3段階が「業務上の文書・会話レベル」、第4段階が「二者間折衝・交渉レベル」、そして、第5段階が「多数者間折衝・交渉レベル」です。

 私はこのランクづけに比較的違和感がなく、文部科学省としては、レベル4とレベル5を一定数確保したいと講演資料に書いてありました。私の印象では、レベル1からレベル4までは、連続性があると思っています。つまり、ある程度の努力を重ねることによって、レベル4までは到達できると思います。ところが、レベル4とレベル5の間は、非連続な、大きなギャップがあると感じています。

 たとえば、英検1級やTOEIC900点台後半のように、本人が努力すればレベル4までは到達できると思います。ただ、レベル5に到達するというのは、別次元の努力が必要で、私の感じでは、レベル5で要求される語学力はレベル4の数倍ではないでしょうか。

河合 5段階の分類、レベル5到達の難しさは同感です。やはり、国際会議のように多くの人が議論する場での能力というのは、二者で互いに理解しながら交渉していくのとはまったく違いますね。ゆっくり考えていたら話が次にいってしまいます。

 また、国際機関では、議論する能力だけではなく、高度な英語の文章力も要求されます。理解するスピード、話すタイミング、正確な文章力がなければ多くの人に意思が伝わりません。レベル5に達するのには、英語力だけではなく、議論をする能力、論理的に考える能力が必要かもしれませんね。

 私は、京都大学で教えている学生が、レベル4にとどまらず、レベル5に到達するポイントを学べるように授業を組み立ています。英語を使って金融、キャリア、プレゼンテーションなどを指導することで、英語で論理的な発言ができる学生を育てることがその柱となっています。

 本来であれば、大学教育がレベル5の日本人を育成する重要な役割を果たすべきだと思います。『自分の小さな「鳥カゴ」から飛び立ちなさい』(ダイヤモンド社)にも詳しく書きましたが、高校までの学習方法より、さらに効果的な学習方法で英語に取り組むこと、また、プレゼンテーションや交渉力を技術として身につけ、外国人と信頼関係を構築することが大切だと思っています。

斎藤 以前にも河合さんにお話ししましたが、私は1988年にハーバード・ビジネススクールの3ヵ月コースに通う機会を与えられました。このとき、会社からは、「研修期間中にレベル5まで頑張ってこい、到達しろ」というようなことは一切指示されていないわけです。そもそも、当時はこのような問題意識がないわけだから。

 最近、そうしたことに気がついたものですから、当社の社員を留学生として送り出すときには、レベル5を目指して2年間の留学期間を送るようにと、人事部にも頼んでいます。レベル4とレベル5は非連続であるということを、より多くの人が意識しなければいけないなと思いますね。