国家、企業、一般国民、3つの視点でグローバル化を考える

斎藤 グローバル化と言ったときに、国家にとってどう考えるか、企業にとってどう考えるか、一般国民にとってどう考えるか、という違いはあると思います。たとえば、「国家にとって」とは国益を担う人という意味です。そうすると、国家にはレベル5の人を一定数以上揃えなければいけませんよね。

 今回のTPPでは、外務省の鶴岡公二さんが首席交渉官です。鶴岡さんが首席交渉官になったのは、外務省の中で格段に高い語学力があるというのも1つの要素だったと伝えられていました。語学力の秀でた人が多い外務省で英語のレベルが話題になるのは、レベル5の中でもレベルが広範囲で、「上には上がいる」ということなのかと思います。

 ところで、河合さんは吉川元偉さんをご存じですか?

河合 元スペイン大使で、直近までOECD(経済協力開発機構)代表部大使だった方ですね。1990年のはじめ、私がパリに勤務していた時代に、吉川大使もいらっしゃって奥様とご一緒に何度かお会いいたしました。

斎藤 今年の異動で国連大使になられました。私はBIAC(OECD関連の民間機関)の副会長を務めている関係で、たまたま何度か、OECDの会議を陪席させていただいたことがあります。吉川さんは、OECDのある重要な委員会のチェアを担っていらっしゃいましたが、英語以外にもフランス語、スペイン語に堪能で、とても頼もしい方だな、と感じました。

 国家としては、一定数、鶴岡さん・吉川さんレベルの方を揃える必要はあると思います。外務省に限らずどこの省庁でもね。話は飛びますが、スポーツの世界でも柔道のルールがいきなり変更になるとか、スキーのジャンプのルールが変わるとかで、日本選手が不利になったという話をよく聞きますよね。

河合 「ルールが変わったことを知りませんでした」と済まされる問題ではないですよね。むしろ、自分たちがルール作りに関わっていかなければならないと思います。そういう意味では、国際機関でもっと日本人が働くことも必要ですし、会議に出席している人たちも、もっと積極的に発言をするべきではないでしょうか。

斎藤 ルールを決める場は英語での戦いとなるのでしょうが、残念ながら、英語力が障害となって、日本は十分な説得力を持つ戦いができていなかったのかもしれません。

河合 そう思います。ただ、最近の銀行の国際自己資本規制などを見ると、日本は主要国の代表として堂々とやりあうようになってきたとは思います。日本代表の発言力も、ここ10年で飛躍的に高まってきましたし。

斎藤 河合さんも以前おっしゃってましたけど、日本銀行の総裁が、主要国の中央銀行総裁が定期的に会合するBIS(国際決済銀行)で、通訳をつけて臨むわけにいかない。今回、黒田東彦さんが総裁になられましたが、アジア開発銀行の総裁も務められ、英語が堪能であるということも1つの要因だったのではないでしょうか。

河合 かなり以前の話ですが、黒田さんがBBCの『HARDtalk』という番組に出演していたとき、インタビュアーの意地悪い質問にも明快かつ論理的に答えていたのを見て関心しました。金融危機以降、国際会議の頻度だけでなく、その重要性もさらに増してきたため、テレコンでも大切なことが決められるようになってきています。通訳をつけて話したり、翻訳された文章を読んでいる暇はなくなってきているように感じます。

斎藤 国家の次は企業。企業というのは、手を打っていかなければ確実に沈んでいくわけですから、何としてでもやりますよね。ただ結局のところ、国家とは異なり、日本人でなくてもいいという面もあります。

河合 日本人だからといって雇ってくれる時代は終わったと思います。日本企業で働いていても、海外の人と競争していかなくてはいけないですよね。京大に来ている留学生は日本語も英語も上手です。

斎藤 私どもの会社は、事業展開している各国のローカル人材を昇進させてローカライズさせる形で進めています。もちろん、そのためのマネジメント、目配りをするために、グローバル人材を相当数揃える必要はあります。

 言い換えれば、レベル4の人材を多数揃えておくイメージです。そして、彼らのようなグローバル人材の中に、レベル5の英語力を持つ者を一定数置けるように育てていきたいですね。そのためには、国際機関に出向させるなどの育成方法も活用しています。

河合 国際機関への出向者への目は、以前より厳しくなっているようですね。以前は留学代わりに若い人が送られていましたが、OECDなどでは、英語力のない人は手弁当でもいらないとされてしまいます。こうした経験は、専門知識もあって優秀な日本人にとって屈辱かもしれません。しかし、共通言語である英語力が不十分であれば、業務ができないと思われても仕方がないとも言えます。やはり、企業や官庁だでけではなく、大学教育で学生をレベル4、あるいはレベル5まで引き上げる足がかりを作ることは重要だと思います。

斎藤 3つ目の一般国民のレベルという意味では、グローバル社会になるなかで、問題意識を持つ人が徐々に増えているように思います。レベル1やレベル2については、英語に正面から取組めば到達はそれほど難しいこととは思えません。日本の勤労者の平均的なレベルが、レベル2くらいになれば素晴らしいことだと思いますね。

次回更新は1月8日(水)を予定。


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