スタバやザ・ボディショップでは
「昨年対比」と「一次情報」を重視した
田中 私もまったく同感です。ところで、また財務のお話しに戻りますが、キャッシュと時間以外に岩田さんが重視している経営指標、財務指標は何かありますか?
岩田 それは企業によって当然違いますけど、小売の場合は既存店の昨年対比です。同じ100店舗なら100店舗どうし、同じ店舗数で前期と今期の売上を比較します。お店の数を増やしていけば、当然、売上全体は増えていきます。だけど、1店舗当たりの売上がどうかというのが大事になってきます。たとえば、昨年対比で105から107の水準に行っているときは出店を続ける。それが100を切ってきたときには出店を控えるという具合です。ザ・ボディショップのときは、社長在任期間中に100から170店舗に増えましたが、このあたりは毎日全店舗の売上を見ていました。だけど、スターバックスでは900店舗ありましたから、さすがに見られませんでした。
田中 せっかく情報を集めても何も読み取れなかったら無価値になってしまいますよね。多くのデータから意味を読み解くためにどんな工夫をされていたのでしょう?
岩田 担当者がマーケットをしっかり理解して、私に上げるべき数字をうまく編集して報告すること。
よく数字の羅列や数値表を出してくる人がいますが、必ずこの数値や表にどんな意味があるのかあなたは報告者として何をマネジメントに伝えたいのか、必ず書きなさいと指導をしていました。あとは、経営者として、できるだけ一次情報を取ることを心がけていました。時間のある限り一次情報にも触れることです。下から上へ階層を経て報告するごとに、だんだんバイアスがかかってきます。一般的に、人間は嫌なこと、悪いことは話したがらない傾向があるから、上へ報告される情報は事実とは異なる内容だったりします。実際には現場は大変な状況なのに、下から上への伝言ゲームをやっている過程で何とかなる! 大丈夫! という話にすり変わってしまいます。だから、経営者も時々は一次情報を取りに行く必要があります。一番良いのは、自分がこの目できちんと見るということです。
田中 それは、1店舗ごと順番に全店舗を見ることはさすがにできないから、基本は本社の社長室でエリアごとの数字を見るけれども、たまには一次情報を取りに現場を見に行く、といった具合ですよね?
岩田 そうですね。やはりお店で聞いてみることが一番大切です。いわゆる、抜き取り確認、サンプリング調査です。
田中 それは、本社で数字からつかんだ感覚と、現場で感じた自分の肌感覚が合っているかどうか、といったことでしょうか? 両者が合っていなかったら、何かおかしいのではないか? と。
岩田 はい。