楊貴妃の美貌を謳う李白の詩に、次のようなものがある。訳は岩波文庫による。
清平調
雲想衣裳花想容, 雲には衣裳を想い 花には容(よう)を想う.
春風拂檻露華濃, 春風 檻(おばしま)を払(はら)って
露華(ろか)濃(こま)やかなり
若非群玉山頭見, 若(も)し群玉(ぐんぎょく)山頭(さんとう)にて
見るに非ずんば
會向瑤臺月下逢。 会(かなら)ず瑤台(ようだい)月下(げっか)に
向いて逢(あ)わん
ネーミングのうまさに脱帽
李白の有名な詩のひとつとして知られているが、唐の時代に書かれたこの詩を現代中国人の生活に活用した会社がある。スーパーモデルのシンディ・クロフォードが長年看板モデルを務めたアメリカの化粧品会社、レブロンだ。レブロンの中国語ネーミングは、なんと「露華濃(Luhuanong)」だ。
それを目にしたとき、ネーミングのうまさにただただ頭が下がるばかりだった。膨大な数の唐詩の中から、発音が近く意味も美しく、香水や化粧品のイメージにフィットし、楊貴妃の美貌を謳うこの表現をよくぞ探し出したものだと感心した。しかも李白は唐の詩人だから著作権料など厄介な問題も発生しない。効果的なうえに経済的なのだ。
私に言わせれば、これは化粧品や日用品の分野で最も優れた中国語ネーミングだと言えよう。私が書いたネーミング関連の本でも、この実例を何度か取り上げている。
今の中国はすっかり商品化社会へと変貌し、どこへ行っても商品が氾濫している。売り手市場から買い手市場へ変わった今日の中国で、消費者の心を掴むことはたいへん困難な作業となった。会社や商品のイメージを効果的に消費者に伝えるために文学の力を借りることも必要となる。レブロンはまさにその代表例だと言えよう。