医薬品は生活必需品として、売り上げが景気減速の影響を受けにくい。したがって、医薬品企業は株式市場では「ディフェンシブ銘柄」の代表格と見られることが多い。だが、処方箋なしで薬局やドラッグストアで買えるOTC医薬品(大衆薬)業界に限っては、そうとばかりも言えなさそうだ。

 OTC医薬品市場は、過去2年、しみ改善薬「トランシーノ」(第一三共ヘルスケア)や、漢方薬の「ナイシトール」(小林製薬)などのヒットもあり、1990年代から続いた市場縮小基調を脱し、拡大に転じていた。今期も、禁煙パッチの「ニコチネルパッチ」(ノバルティスファーマ)などヒット商品も出ており、漢方薬の市場も毎月2ケタの伸びを続けている。

 だが、市場全体を見渡せば低調だ。4月~10月で前年同月を上回ったのは101.4%となった7月のみである(市場数字はインテージ調べ。以下同じ)。「今年4月頃からガソリン価格が上がって、郊外型のロードサイドの店舗が厳しくなった。食品の値上がりが家計を圧迫し、すぐに必要ではない治療薬以外の製品が影響を受けたことも大きい」(時田悟・インテージ マーケティングソリューション部SDI担当部長)。

 9月には、米リーマンブラザーズが破綻し、もともと減少基調だったドリンク剤などを中心に下げ幅が加速。10月のOTC医薬品売上高は、985億円と前年同月比で96.5%に沈んだ。

 さらに、「悩ましいのが年末の忘年会を当て込んだ胃腸薬需要の減少」(OTC医薬品メーカー関係者)だ。近年は飲酒運転の取り締まりや罰則が強化されたことにより以前ほどではなくなったとはいえ、宴会が多い年末の胃腸薬の売上高は、明らかに他の時期より膨らみ、需要の“山”を形成してきた。

 ところが連日、不況の真っ只中で盛り上がらない盛り場の様子が報道され、すでにOTC医薬品メーカーも諦めムード。景気の影響をもろに受けた格好になった。

 メーカー最後の望みは、不謹慎ながら“風邪の大流行”にかけるしかないが、例年より早いとはいえ、大流行した昨年と比べれば、かなり遅い流行ペースである。

 風邪の流行の1つの目安となる国立感染症研究所感染症情報センターの「インフルエンザ流行レベルマップ」によれば、インフルエンザの流行が“警報レベル”にある危険地域は、前年の4道県12ヵ所(保健所地域)に対し、今年はゼロ。“注意報レベル”は13都道県38ヵ所に対し、今年は10県11ヵ所(12月17日時点)となっている。

 OTC医薬品メーカーには、寒い冬となりそうである。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 佐藤寛久)