岸見 人はどんなときに自分を好きになれるのかというと、自分が誰かの役に立てていると感じたときなんです。でも、他者を自分の敵だと思っていたら、貢献したいなんて思わないですよね。だから自己受容、他者信頼、他者貢献はワンセットでどれも欠くことはできない。自分のなかで完結しようと思うから自己肯定なんて言葉が出てくるわけで、実は、自分を肯定するためには他者が必要になるんです。

安藤 自己肯定と自己受容の違いは、とても重要なポイントになりそうですね。私も含めて、その差に気付かないで苦しんでいる人たちがたくさんいそうです。

他人をほめるのは悪いこと?

安藤『嫌われる勇気』では、「怒り」などの感情についての考察も印象に残りました。感情には必ず「目的」があり、それに気がつけばコントロールできると。

岸見 怒りの感情の裏には、自分の主張を通したいなどの目的があります。それを理解すれば、目的を果たすためによりよい方法があることがわかってくる。子どもがスーパーのオモチャ売場の前で泣き叫んだらたいていの親は叱ると思うんですけど、子どもは自分の要求をどうしたら通せるかわからないから泣いているわけですよね。

安藤 そうですね。

感情には必ず「目的」があり、人はそれに気がつけば必ずコントロールできると語る岸見氏。

岸見 だから私は自分の子どもに、「そんなに泣かなくてもいいから言葉でお願いしてくれませんか」と言ったんです。そうしたら彼も泣きやんで、「あのオモチャを買ってくれたら、うれしいんだけど」と言いました。そういう経験を重ねていけば、感情という不自由な手段を使わなくても自分の気持ちを伝えられるようになります。

安藤 それって大人でもいっしょですよね。私も母親から小言を言われるとついカッとなりますし、仕事をしていても思いどおりに事が運ばなかったり、スタッフが小さなミスをするとついついイライラしてしまう。でも、年末にアドラー心理学を知ったので、2014年はまだ感情的な手段を使っていません!

岸見 それはよかった(笑)。

安藤 ですが、内に溜まった感情を発散したほうがすっきりして前に進めるという考えもありますよね。私にはその是非はわからないのですが、あるセラピーでは、患者がカウンセラーと一緒に小さな個室に入り、今まで自分が経験してきたいろいろなことを思い出して、怒りや悲しみの感情を思い切り吐き出すと聞きました。

岸見 感情は溜まるものではありませんよ。蓄積されません。

安藤 えっ? そうなんですか?