岸見 たとえば、親と子どもが大げんかしていたとします。喧嘩の最中に親が電話を受けて、相手が学校の先生だったら、深々とお辞儀して対応すると思うんです。
安藤 ああ、声色まで変えて。
岸見 そう。でも、電話が終わって子どもの顔を見たら、また腹が立ってくる。つまり感情とは瞬間に沸いてくるものであって、蓄積されるものではないので、そもそも発散することもできないということです。
安藤 花粉症のように内部に蓄積して爆発するものだと思っていました。
岸見 すべてを感情のせいにしてしまえば、自分自身には責任がなくなるので楽になれるでしょうが、それも大きな嘘です。人は、そのときどきの目的に即して、手段である感情を使い分けています。責任は、すべて使い手である自分にあるのです。
安藤 目的に応じて、感情を使い分けている……。耳が痛いですが、勉強になります。
岸見 ええ、厳しい考え方ですが、向き合わなくてはなりません。
安藤 あと、すごく参考になったのは、叱ることもほめることも同義であるという考え方です。よく「ほめて伸ばせ」なんて言われるように、ほめるという行為は安易に推奨されがち。でも、立場が上の人間が下の人間を評価し、操作しようとする意味では叱ることと同じであるという言葉に、ハッとさせられました。
岸見 対等な関係同士ならば感情で操作する必要なんてないんです。ちゃんと言葉で気持ちを伝えればいいだけ。相手が自分より下だと思っているからコントロールしようとする。そのことがより顕著になるのが「ほめる」という行為です。仕事にしろ、育児にしろ、すべての対人関係を「横の関係」にして、この人は大切な友人なんだという感覚を身につければ、日々の生活が変わってくると思いますよ。
(後編に続く)
(前編も読む)
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岸見一郎/古賀史健著『嫌われる勇気──自己啓発の源流「アドラー」の教え』
【内容紹介】
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「トラウマ」の存在を否定したうえで、「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」と断言し、対人関係を改善していくための具体的な方策を提示していくアドラー心理学は、現代の日本にこそ必要な思想だと思われます。
本書では平易かつドラマチックにアドラーの教えを伝えるため、哲学者と青年の対話篇形式によってその思想を解き明かしていきます。
【本書の主な目次】
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