シンガポール発バンコク行き730円、クアラルンプール行き660円。そんなタダ同然の航空券を販売する格安航空会社(LCC)に、全日本空輸(ANA)が勝負を仕掛ける。
この4月、香港に「アジア戦略室」を開設し、今年度内をメドにLCC設立を目指すのだ。「成田、羽田の滑走路が2010年に拡張されるのを機にLCCが日本に本格進出することを想定し、これに対抗するためだ」と山元峯生社長は言う。
冒頭の激安チケットは、アジア系LCCで最も勢いのあるマレーシアのエアアジアが客引き広告用に販売しているものだが、通常価格も大手航空会社の運賃と比べて、5割、6割引きが当たり前だ。
低コスト体制が実現できるのは、(1)安いコストの乗員採用による人件費抑制、(2)機種を統一して整備コストを低くし、機材回転率も高めることで機材・燃油費を抑制、(3)機内サービスの有料化や航空券のインターネット直接販売によって営業・販売費を圧縮、(4)使用料の安い空港を利用、という四つが揃っているため。大手航空会社と比べ、なんと3分の1のコストで運航しているのだ。
ANAの既存組織では、日本人を中心とした高い人件費、国内空港の高い利用料がネックとなる。そこで海外航空会社との合弁設立、あるいは経営を主導できるLCCへの出資を選択する方向で交渉を進めている。
「半年内をメドに固めたい」とANA幹部。海外航空会社と手を組んでLCCの海外拠点を持てば、日本発着にこだわらず、アジア市場での需要に応じて路線を広げることになる。
一方、国土交通省は羽田の国際化に依然、腰が重く、LCCに就航の余地が与えられるかは不透明。日本の空の開放が十分に進まなければ、日系勢までもが日本の上空を“パッシング”してアジアを駆け巡る時代が訪れることになる。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 臼井真粧美)