ベンチャー企業の経営者として実務に携わり、マッキンゼー&カンパニーのコンサルタントとして経営を俯瞰し、オックスフォード大学で学問を修めた琴坂将広氏。『領域を超える経営学』(ダイヤモンド社)の出版を記念して、新進気鋭の経営学者が、身近な事例を交えながら、経営学のおもしろさと奥深さを伝える。連載は全15回を予定。

日本の経営学と欧米の経営学はどこが違うのか?

「日本の経営学と欧米の経営学の違いは、どのようなものですか?」

 これは、ヨーロッパで経営学を修めてきた自分が、日本で経営学を議論する際によく受ける質問です。

 正直なところを言えば、その質問に十分に答えることができるほど、日本で行われている研究を熟知していません。それは、私の不勉強とは言えば不勉強です。

 しかし、もう一方の現実として、欧米のトップジャーナルに継続的に出版されている日本の経営学者の方々は、数えるほどしかいないのも事実です。

 とはいえ、日本の研究の質が低いかと言われれば、それは違うと私は考えています。驚くべき時間を費やして入念に調べ上げた事例研究も多く存在し、また、日本の学会が築きあげてきた理論の体系には、日本人として誇るべきものがあるとも感じているからです。

 日本で一般にもよく読まれている経営誌として、『一橋ビジネスレビュー』(東洋経済新報社)という雑誌があります。その各号の前文には、以下のような創刊の志が書かれています。

「(前略)日本企業の競争力が向上するに従い、欧米からの借り物の経営理論ではなく、日本発の理論的・実証的研究が時代の要請になった。(中略)従って、創刊にあたっての想いは、『日本発の理論的・実証的経営研究をオールジャパンの研究陣で発信する』であった。(後略)」

 この目的に照らせば、日本の経営学は力強い発展を遂げていると言うことができるでしょう。しかし、違いがあるかと問われると、違いがあると感じていることもたしかです。

 もちろん、全般的な傾向としての平均値の感覚を語るのと、それぞれの研究者が実際に行っている個別の研究の現実には大きな開きがあります。日本にも「欧米的」な研究者はおり、欧米にも「日本的」な研究者はいます。つまり、あくまで「平均的に」という議論しかできないのです。

 しかしながら、その「平均的」を考えてみると、日本は比較的に解釈主義・実学重視の立場を取っており、それに比べると、欧米は実証主義・研究重視の立ち位置を取っていると思えます。