日本も欧米も、経営学はいま転機を迎えている

 また、日本のビジネス・スクールが実学、つまり実務家への貢献を重視しているのに対して、欧米のビジネス・スクールは、より研究を重視しているようにも思えます。

 それは、欧米においては、日本以上に採用や昇進、そしてテニュア(終身在職権)の審査で、学術論文を通じて学問としての経営学にどれだけ貢献したかを厳密に評価されている事実。そして、日本においては、より多くの実務家教員の方が活躍されている事実から、その状況を想起することができます。

 しかし、この点に関しても、近年の日本のビジネス・スクールは、実学を中心とする方向だけではなく、研究での成果、特に海外における研究の認知度を高めることに力を入れ始めています。逆に、欧米のビジネス・スクールでは、日本のビジネス・スクールが提供しているような、より実践的な知識を提供し、現場における知識の試行を重視する教育手法を真剣に検討しているのです。

 たとえば、ハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・クリステンセン教授は、2013年の『Silicon Valley Business Journal(シリコンバレー・ビジネス・ジャーナル)』のインタビューでこう語っています(*1)。

「オンライン教育と同様に、ハーバード・ビジネス・スクールの脅威となっているものがあります。それは『on-the-job education』です。これはたとえば、1週間ほど滞在して我々が戦略などを教授し、生徒は現場に戻りそれを実践する。そして、その後にまた大学に戻り、今度は製品開発を学んでそれをまた現場で実践するというものです。生徒は学び、それを使います。これは大きく異なるビジネスモデルで、我々にとって脅威です」

 ここで指摘されている「on-the-job education」は、日本の著名なビジネス・スクールが行っている、仕事を続けたままで夜間や土日に学び、学んだことをそのまま実践していくという形態に非常に近いとも言えます。

 もしかしたら、欧米のビジネス・スクールも、これまでのように研究を最重要視した教育内容で生き残れるのか、大きな悩みを抱えているのかもしれません。

 参考までに、同じくハーバード・ビジネス・スクールのロバート・サイモン教授が2013年に書いた、「The Business of Business Schools: Restoring a Focus on Competing to Win(ビジネス・スクールの『ビジネス』:競争に勝つための再編とは)」は、このような変革への苦悩の一面を垣間見ることができる作品です(*2)。

 この点においても、どちらが良い悪いということを、一概に結論づけることはできません。

 *1 邦訳は筆者。Cromwell Schubarth. February 7, 2013. “Disruption guru Christensen: Why Apple, Tesla, VCs, academia may die.”, Silicon Valley Business Journal, http://www.bizjournals.com/sanjose/news/2013/02/07/disruption-guru-christensen-why.html?ana=twt&page=all, (accussed 2014-318).

 *2 Simons, Robert. January 7, 2013. “The Business of Business Schools: Restoring a Focus on Competing to Win.”, Capitalism and Society, http://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=2084423, (accussed 2014-3-18).