事例研究も学問的に優れた作品として成り立つ
定性的な研究に価値があるか、より単純化すると、その一部である事例研究に価値があるかという議論も、『領域を超える経営学』(ダイヤモンド社)の第1章で解説した「経営学の二面性」に通じる議論です。何のためにそれを行うかが明らかにされなければ、価値があるかどうかはわかりません。
解釈主義的な立ち位置に立った事例研究であっても、実学としての経営学の教育や研修の目的に照らせば、優れた作品と評価される余地が十分にあります。そして、実証主義の見地からも意味のある目的があり、定性研究である必要性が認められ、できる限り科学的な手法に基づいた事例研究なのであれば、それには大きな価値があるのです。
だからこそ、ケース・メソッドと呼ばれる教育手法は、世界中の一流のビジネス・スクールにおいて採用され、そして、将来の経営者たちから高い価値を認められていると言えるでしょう。
世界中の研究者が参照する一流の学術誌においても、事例研究は依然として価値を認められており、その多くはBest Paper(優秀論文)として高い評価を得ているのです。
さて、これ以上堅苦しくなっても仕方ありませんので、もっときちんとした学術的な議論を知りたい方は、以下の論文や書籍、そしてこれらで引用されている文献を参照していただければと思います(よろしければ、立命館大学の私の研究室でも)。
それでは、また次回。
付録:事例研究という手法をより厳密に学びたい方へ
1. 誰もが読んでいる事例研究の教科書です。読まずに事例研究をすることはあり得ません。
Yin, R. K. 2006. Case Study Research: Design and Methods 5th Edition. Sage Publications.(『新装版 ケース・スタディの方法【第2版】』近藤公彦訳、千倉書房、2011年))
2. 事例研究の手法で教科書の次に必ず読むべき論文。読まないと査読が通りません。
Eisenhardt, K. M. 1989. “Building Theories from Case Study Research.” Academy of Management Review 14(4): 532-550.
Eisenhardt, K. M., and Graebner, M. E. 2007. “Theory Building from Cases: Opportunities and Challenges.” Academy of Management Journal 50(1): 25-32.
Gephart, R. P. 2004. “Qualitative Research and the Academy of Management Journal.” Academy of Management Journal 47(4): 454-462.
3. 欧米の査読誌に掲載された定性研究のレビュー。引用されている論文からコツを盗めます。
Bluhm, D. J., Harman, W., Lee, T. W., and Mitchell, T. R. 2011. “Qualitative Research in Management: A Decade of Progress.” Journal of Management Studies 48(8): 1866-1891.
Lee, T. W., Mitchell, T. R., and Sablynski, C. J. 1999. “Qualitative Research in Organizational and Vocational Psychology, 1979-1999.” Journal of Vocational Behavior 55(2): 161-187.
4. 近年の定性研究手法の流行である「Gioiaメソッド」。トレンドは掴んでおくべきかと。
Gioia, D. A., Corley, K. G., and Hamilton, A. L. 2013. “Seeking Qualitative Rigor in Inductive Research: Notes on the Gioia Methodology.” Organizational Research Methods 16(1): 15-31.
仕事や旅行を通じて、60ヵ国・200都市以上を訪問した琴坂氏。第11回は、先進国の「常識」が通用しないこともある世界の現実を、実体験を交えながらひも解く。次回更新は、3月31日(月)を予定。
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