ベンチャー企業の経営者として実務に携わり、マッキンゼー&カンパニーのコンサルタントとして経営を俯瞰し、オックスフォード大学で学問を修めた琴坂将広氏。『領域を超える経営学』(ダイヤモンド社)の出版を記念して、新進気鋭の経営学者が、身近な事例を交えながら、経営学のおもしろさと奥深さを伝える。連載は全15回を予定。

2つの目的で変わる定性研究の価値

 前回、解釈主義の立ち位置では、定性研究が盛んだと書きました。しかし、誤解していただきたくないのは、もちろん、実証的な定性研究がないわけではないということです。

 より重要なことは、定性研究の価値は、社会科学としての経営学への貢献を目指すのか、実学としての経営学への貢献を目指すのかで変わってくるということです。

 実学としての経営学への貢献を目指すのであれば、それができるように、「学びの資料」として緻密に設計する必要があります。また、社会科学としての経営学への貢献を目指すのであれば、できる限り科学的に、客観的に、そして、第三者が再現可能な調査内容と手法を取ることが求められるのです。

 あまり単純化しすぎるといろいろな人たちに怒られてしまいますが、今回もできるだけ話を簡単にして、定性研究、その中でもとくに事例研究について、それがどういう意義を持つのかをご説明したいと思います。