経営幹部を目指すなら「簿記」がおすすめ

保田 タックスマインドは意識するとして、その他に将来の経営幹部を目指す若い人たちがキャリアアップして経営幹部になるにあたって必要な知識とか、こういうことを勉強したらいいんじゃないですか、といったアドバイスはありますか?

石本 私は、簿記のスキルって、実はとても大切だと思っています。簿記というと経理部や財務部の人のやることでしょと思われていますが、そんなことはありません。簿記で一番重要なのは、貸借一致による自己検証可能力と言われています。これは、常に相手勘定を意識するバランス感覚を養うということ。また、経営上の取引活動の原因と結果がすべて仕訳で表現されることを知り、自分の今行っている仕事がどのような仕訳で表現されるかを考えて、自分の仕事を企業活動の面から俯瞰できるということでもあります。簿記の資格を取らせる証券会社があるけど、私は賛成で、営業マンであろうと2級くらいまでは簿記の感覚を身につけることが重要なことだと考えています。

田中 私も同意見です。でも、「簿記は必要ですよね!」と声高に言うと、ウケが悪いですよね(笑)。だから私も言わないんですけど、実は、簿記って地頭の差がものすごく出ます。私も昔、監査法人にいたときにリクルーティングを担当していましたが、簿記ができる人を好んで選んでいました。仕訳が瞬時に思い浮かぶかどうかという簿記のスキルは本当にセンスと頭の良さが表れるんです。

石本 たぶんIQに通ずるものがありますね。あれは数学ではなく頭脳を磨くパズルです。簿記は思考する力を鍛えるのに適しています。

経理部長に求められる税務知識のレベルとは?

保田 参考までにお聞きしたいのですが、上場をめざすベンチャー企業の経理部長や財務部長に求められる税務知識のレベルは、どのくらいなのでしょうか?

石本 結構、詳しくない人が多いですよ。たとえば、上場したてのベンチャーの人の税務知識レベルは、全体としてはそれほど高くありません。私も、そうした知識よりも税理士をうまく使いこなすことの方が大切だと思います。

田中 商社やグローバル企業のCFOや経理部長として転職するなら「タックスプランニングができなかったら話になりません」と言われますが、新興市場に上場する会社の経理に税理士さんと同じレベルまでは求められないということですね。

石本 そうですね。グローバル企業であれば基本的には社内の経理部の中に税務チームがあります。そこには必ず会計事務所のビッグファーム出身の税理士が何人もいて、グローバルに税額最小化スキームを構築する、といったことをやっています。海外の会社がやっているアマゾンやスターバックスの税額最小化スキームが租税回避行為として指摘され注目を集めていますが、あの手のスキームは、ほとんどが社内で考えられています。

田中 外部の専門家は、クライアントを危険にさらすような、きわどいアドバイスをしにくいですからね。

石本 私もかつてビッグファームにいたときに経験しましたが、そのようなスキームは、社内税理士のような人たちが必死に考えているケースが多いのです。そして、練り上げたスキームを「このスキーム、税務上問題ないですよね?」と持ちこんできます。一方、上場するレベルのベンチャー企業の経理部長に求められているのは、どちらかいうとファイナンスです。税務は後回しになるケースが多いですね。