ある日突然、お払い箱にならないために

田中 新興市場には赤字のまま上場できるくらいですから、税金を少しでも減らそうとか、タックスプランニングが必要といった局面にたどり着いていない会社が多いと思います。

石本 ただ、税務的な知識が必要になるケースも確かにあるのです。いまは町工場も上場企業に買収されて、突然、上場企業の連結決算に組み込まれる、なんてことも起こりえます。私の顧問先でも連結パッケージで上場企業並みの決算の質が求められるようになった、というケースもあります。

田中 そうすると、いままでのように牧歌的にやっていればいい、ということにはなりませんね。

石本 最近の若い会社は、創業したときから海外へコンテンツを販売することも普通です。昔は企業規模が小さければ、税理士にまかせているから税金のことなんて知りません、と言っていればよかったけど、そうは問屋が卸さなくなってきた部分もあります。国際税務なんて一部のグローバル企業だけが考えていればよかったのですが、最近は創業時からいきなり直面するケースも出てきました。

田中 経理部長やCFOとしても、のんびりやっているだけだと、ある日突然お払い箱になるかもしれないということですか?

石本 そうなんですよ。自分の会社がどんなビジネスをやっていて、どこをめざしているのか。それを常に考えながら、必要なスキルを身に付けていかないといけません。ただでさえ、経理部などの管理部門は、どこかの会社に買収されると、すぐにお払い箱になりやすいポジションなんですから。

田中 こうしてうかがっていると、経理部長にとって必要な税務の知識やスキルを体系化することはなかなか難しいですね(笑)。

取材を終えて

 税理士は、顧問先に依頼された会計帳簿の記帳代行や税務書類の作成といった法定業務をつつがなく行なっていれば、顧問先からきちんと評価されるかもしれません。一方で、税理士以外に外部のプロフェッショナルに頼ることもできない中小企業にとっては、いかに頼りになる税理士を見つけるか、いかに税理士の知見を使うか、といった税理士活用法ともいうべき知恵は非常に重要といえます。
 経営再建に取り組もうとする中小・オーナー企業の財務内容を最初に見せてもらうとき、「税理士がもっと早く適切な指導をしていれば」と悔やまれるケースが実に多くあります。もちろん、社長の経営判断に口をはさむことや経営コンサルティングが税理士に求められているわけではないため、何ら責任が生じることはありません。ただ、優秀な人材の採用に限界があり、プロフェッショナルサービスを受けるだけの余力がない中小企業においては、唯一の専門家である税理士が企業を防衛する最後の砦になっていることもまた事実です。
 そのように考えると、税理士は、税務実務に関する知識やノウハウに精通しているだけでなく、経営全般に関する深い知識や幅広い経験に加え、ビジネスに対する鋭い洞察力を備えていることが求められます。そして、それ以上に大切なのは、顧問先企業の社長から何でも相談されるとともに、時には社長に対して厳しく進言できるだけの強固な信頼関係を構築することといえるでしょう。
 「会社の数字をつくる側」と「会社がつくった数字を見る側」の両方を幅広く経験した石本氏は、ある意味、会社の栄枯盛衰の事例を知り尽くした「データベース」となっています。日々新しいことに直面するベンチャー企業の経営者から「石本さんに聞けばわかる」と頼られているのは当然のことかもしれません。
 企業の側も、単に記帳業務や税務に関する専門家としてではなく、経営の意思決定に活用する情報源として、また、何でも相談できる経営パートナーとして、税理士をうまく活用することを考えてみてはいかがでしょうか。

(終了)


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