『ミシュランガイド フランス』で、なんと20人が星を獲得!

 1994年から1996年まで、私はMBAを取るためアメリカに留学をしていました。仕事も辞めていったのでお金はなく、1日たった3ドルで過ごすような貧乏生活。そんな苦しくも楽しいチャレンジをしている時期に勇気を与えてくれたのは、野茂英雄選手の活躍でした。
 当時はメジャーリーグに挑戦するだけでもすごいという時代。それがまさかドジャースで大活躍をして人気者になるなんて、想像もつかないほどすごいことです。彼の活躍のおかげで、その後、イチロー選手や松井秀喜選手、ダルビッシュ有選手など、日本人が次々とメジャーへ挑戦。野茂選手は、まさにメジャーへの道を切り拓いたパイオニアとなりました。

 また、同じようにサッカー界では中田英寿選手がセリエAに挑戦、多くの選手がそれに続いているし、他にもゴルフやテニスなど、今やプロスポーツ選手が海外に挑戦することは珍しくなくなっています。
 留学時代の私が感じたように、彼らの活躍は多くの日本人に勇気を与えてくれました。そして、「自分もやってみよう」という思いにさせてくれたことでしょう。

 翻って料理の世界では、フランスのミシュランといえば、野球でたとえるならまさにメジャーリーグのようなもの。これまで現地で活躍した人といえば、2002年に日本人オーナーシェフとして初めて一つ星を獲得した「レストランひらまつ」の平松宏之シェフ、続いて2006年に同じく一つ星を獲得した「ステラマリス」の吉野建シェフくらい。
 彼らは、1970年代に何の情報もない中でフランスへと渡り、30年近いキャリアを重ねてようやく店を構え、一つ星までたどり着きました。平松シェフや吉野シェフたち第一世代が一生懸命働き、多くの苦労の末に「日本人への信頼」というベースをつくったのです。

 しかし、それから次に続く世代は、なかなか現れませんでした。それが2006年、前述した松嶋啓介シェフが最年少の28歳で星を取ったあたりから、一気に流れが変わります。2011年には、同じく今回の本に登場している佐藤伸一シェフが日本人オーナーシェフとして初めて二つ星を獲得。そして、2014年の『ミシュランガイド フランス』では、なんと計20人もの日本人が星を獲得するまでになったのです。
 第二世代は、悪く言えば「使われる側」で終わってしまいましたが、彼らが信頼の土壌を築き、ここにきてようやく第三世代が登場したわけです。