無理に海外に合わせなくていい
日本人はこれまで、アメリカナイズ、ヨーロピアンナイズというように、どちらかといえば、海外に合わせることをよしとしてきました。
先ほどのオリンピックの話のように、日本のよさや強みが世界で通用し、海外の人から評価されているにもかかわらず、日本人はそれに気づかず、無理に合わせようとしてきた。これまで海外で大活躍する人がなかなか出てこなかったのも、こうしたことが原因なのかもしれません。
なにも無理をして、合わせる必要はありません。遠慮をすることもないし、日本人が持っているものを自信を持ってそのまま出していけば、実は海外でのほうが評価される。活躍しているシェフたちは、いち早くそれに気づいています。
スポーツや料理の世界はもちろん、ビジネスの世界でも、今まさに同じようなことが起こっています。たとえば、アニメなどのカルチャーが評価されるのもそうだし、漢字など和の文化や建築などが「クール」だと言われるのもそう。海外の人たちは、すでにどんどん日本のいいところを取り入れています。
では、なぜそれほどまでに評価されるのか、それは日本人にオリジナリティがあるからです。電車は時間どおりに来るし、街のいたるところには24時間営業のコンビニがあって、治安もいい。仕事への情熱もあるし、何事にも真面目に取り組むロイヤリティの高さもある。これらは誰もが当たり前だと思っているかもしれませんが、海外から見ればかなり特異なことなのです。
日本人にとってはある意味で、海外に出れば、努力をしなくてもオリジナリティを発揮できる環境が整ってきたともいえるでしょう。
技術や情報はシェアする時代
料理の世界では、かつて「技術は盗む」ものでした。たとえば「秘伝の◯◯」といったように、とっておきの技術やレシピは、隠して表に出さないのが当たり前。しかし、そうした悪しき伝統は今、だいぶ変わりつつあるようです。
今回取材した、ミシュランで3年連続三つ星を獲得している日本料理店、龍吟の山本征治シェフは「盗んで覚えろとか、教えないのは怠慢だ」とまで言っているほど。自分の技術はどんどん伝えるべきだというシェフも増えています。
教える側の考え方も変わってきたし、ネットをはじめ多くの情報に触れられるので、働く側が自分で学ぶことだってできる。たくさんのことを効率よく学べるため、修業の期間も短くなってきた。そうした、料理人が力をつけるための方法や土壌も整ってきていると感じます。
中でも、とくに海外に出ていくハードルは、昔に比べて何段階も下がっています。たとえば、私が留学した時代にはインターネットがありませんでした。現在のように、検索をすれば、こういう書類が必要だとか、これを準備したらいいという情報がバーッと出てくることはなかったのです。
当時、留学したいと思ったときにどうするかといえば、行ったことのある人に話を聞いてみたり、わざわざ一度現地まで出かけてみたり。最終的には、何があるのかよくわからないというような状態で海外に行かなければなりませんでした。
料理人だって、修業をしようと思ったら、現地に行って片っぱしからレストランに電話をかけたり、知り合いのつてをたどってシェフを紹介してもらったり。それが今では、インターネットで簡単に働き口を探すこともできます。
今回話を聞いたシェフの中にも、知り合いを通じてフェイスブックでつながったことから関係が始まり、取材をさせてもらったという人もいるほど。情報・通信環境は、ここ数年でより進化してきたと感じます。
もうひとつ昔と違うのは、他の人の成功を応援するムードが高まっていること。シェフたちの話を聞いてみても、とにかく日本人みんなが海外で活躍できるように、ノウハウを教え合ったり、たんなる競争相手とは違う関係になっています。
かつては、自分のまわりだけで情報を囲い込もうというマインドだったのが、助け合うという方向に変わってきた。中国人が世界中でうまくいっているのは、華僑のコミュニティをつくって情報や仕事、ノウハウを共有できる仕組みがあるから。私は、年間の半分をハワイで過ごしているので、それがよくわかります。現地では、まわりの日本人からいろいろなことを教えてもらったり、助けてもらったりしていますから。
日本人の評価が上がれば、それにしたがってチャンスも広がる。だから情報でもなんでもシェアして、みんなで成長していこうと考える。そうした、いい雰囲気が醸成されていることも見逃せません。