メディアに露出して有名な教員の研究成果を見ると……
学部と同様に、大学院に関しても、一部の大学や研究者に注目が集中する傾向があるようです。極論を言えば、超有名校の教員であるというだけで、中身に関係なく盲信する報道を目にしますが、これは大きな誤りです。
人には、得意分野と苦手分野、専門分野とそれ以外があります。もちろん、超有名校の教員であれば、その人が実際に研究しているとても狭い専門的な領域については、極めて優れた世界的な知見を持っていることでしょう。しかし、それは何も、彼らが全知全能であるというわけではないのです。
専任教員の椅子は限られていますし、その椅子が空くタイミングは偶然にも左右されます。また、それほど知名度のない地方の大学であれば、優秀な教員を採用するために好条件・高待遇を提示するため、あえて地方大学に行くことで、魅力的な研究環境を手に入れている優秀な研究者はたくさんいます。
実際、いくつかの地方の大学では、優秀な教員には授業負担ゼロを提示したり、奥さんや旦那さんの職までセットで提供することすらあります。もう、ほとんどなんでもありと言っていい状態です。
研究者の間では、経験則に基づき、「メディアなどに数多く登場し、一般向けの講演を多数こなしている教員ほど、実際の研究成果はたいしたことがない可能性が高い」と、よく言われます。
駆け出しの若手研究者である私は、自戒を込めてあえて言うことですが、一般には知られていない、頻繁にはメディアに登場しない研究者の方々のほうが、世の中を変える可能性がある、重要かつ最先端の研究をしていることは多々あるのです。
むしろ、一部の超天才のスター研究者が、例外的に研究と発信の両方ができているのが現状かもしれません。また、iPS細胞の研究で著名な京都大学の山中先生のように、研究資金の確保のために、というケースもあるでしょう。
拙著『領域を超える経営学』(ダイヤモンド社)の第1章の最後で触れているように、社会への発信と、研究としての価値提供を両立するのが極めて難しいことは、2012年の調査でも議論されています(*6)。しかしそれでも、安心と安定を感じさせるブランドに、人は惹きつけられてしまうのです。