そして、第1段階の「危機意識を高める」についてだが、これは危機意識をちゃんと持つということだ。その危機意識はどこから生まれるのか。それは、先ほどの「このまま放っておくとダメになる」とか、「このままやっていても成果が上がらない」という意識。この「このまま」がキーワードだ。

 人間の意識の中には「正常化バイアス」というものがある。これは結構強烈なバイアスだ。たとえば今、火災警報が鳴ったとする。火災警報が鳴ったら、まず取るべき正しい行動は、避難をすることだ。とりあえず避難をした後で、状況を確認すればいい。そのほうが、生き残る確率はぐっと高まる。

 ところが、多くの人は様子見をする。多分私もそうだろう。人間の心の中に、異常事態にならずに正常が続いてほしいというある種のバイアスがある。正常な状態はそのまま継続する、という思い込みだ。だから、「このままではまずいな」と思っていても、できればこのままであってほしい、きっと大丈夫だろうと思って、「変化する必要はない」という説を補強する情報ばかりを選択的に習得する状態に陥ってしまう。

 もう1つ「認知的不協和」という言葉がある。人は、自分の直感や趣味嗜好、想いに合う情報をより拡大して取得し、逆にそれを否定するような情報についてはフィルターを掛けたり、目をつむってしまったりする傾向がある。だから、危機感を煽って、変化を促すような情報は意図的に見過ごし、「このままでいい」という甘言だけを聞くようになるのだ。

 それどころか、「今動くと危ない」という情報を拡大して捉え、それに従おうとすらする。「動いたら、こんな危険があるかもしれない」「こんな悪い事があるかもしれない」「こんなひどい目に遭うかもしれない」。すべて「かもしれない」のだけど、それを信じようとする傾向がある。

 組織の中で耳をそばだてていても、「リスク」というワードはよく耳にするが、「チャンス」という言葉がなかなか聞こえてこない。考えてみれば、チャンスとリスクは表裏一体のはずだから、リスクがあるところには常にチャンスがあるはずだ。ところがほとんどの人は、その事態をチャンスだとは言わない。

 これと同じで、人生においても正常化バイアスが強く働くので、認知的不協和が増大して、チャンスが見えずにリスクばかりが見えるようになる。

 本当の危機はそこにある。動かないことのリスクだ。動くことのリスクと動かないことの安心感を、セルフ・リーダーシップを発揮することで逆転させる。そして動くことをチャンスととらえる。第12回で不満と不安の話をしたが、同じこと。不満のリスクを正当評価することが、危機意識を高めるスタートラインだ。

 そのためには、意図して積極的に動く。そして他人の声にも耳を傾けることが重要だ。まずは会社の中の自分のポジションを素直に見よう。以前に話したように、自分の同期で自分よりも2階級上に行っている人が現れたらアウトなのだ。

 その段階でちゃんとノートに書き出すことも大切だろう。書き出さないと、脳が一所懸命にそのことを忘れようとするからだ。ワープロで打ち込んでもいいのだが、自分で字を書くほうが、儀式としての演出も加わるので、なおいいと思っている。