経済的な利益の拡大にとどまらない
グローバリゼーションの影響

 ギデンズはしかし、本書『暴走する世界』でグローバリゼーションの経済的側面ではなく、「政治、技術、文化」への影響を深く考察しています。デジタル通信、電子マネー経済のグローバル化が何をもたらすのか、です。

 本書の原著が出版された1999年、地球をかけめぐるマネーによって、英国ポンドが暴落し、欧州通貨制度(EMS)から離脱しました(1992年)。その後、英国はユーロにも参加していません。また、タイや韓国などの通貨が売り浴びせられ、暴落後に経済危機に見舞われたアジア通貨危機(1997年)もありました。反グローバリゼーションの主張が大きくなった時代でもあります。

 一方、インターネットによる情報の拡散は、旧東欧、旧ソ連、中東で民主主義革命を起こしました。本書出版後の2000年代でも、ウクライナのオレンジ革命(2004)、アラブの春(2010-12)などが続いています。ギデンズはこう書いています。

 民主主義の世界的な広がりが、その(注・グローバリゼーションの)好個の事例である。民主主義というか弱い草花が、今日の世界に咲き誇っている。だが、民主主義の広がりにもかかわらず、抑圧的な体制はあとを絶たない(略)。コソボを取材したある新聞記者の言葉を借りよう。/「ほぼ五〇万人の避難民がマケドニアにいる。彼らがなにを食べているのかは、だれも知らない……マケドニアに来て、私たちを助けてほしい」/この一文は『トロント・デイリースター』紙上に、一九二二年一〇月二〇日に掲載されたものだ。記者の名はアーネスト・ヘミングウェイとあった。(160ページ)

 民主主義の確立は恐ろしく時間のかかる道であることを示しつつ、本書を次のように締めくくっています。

 民主主義の広まりは、社会構造の世界規模の変化と表裏一体の関係にあるのではないだろうか。戦わずして、なにものも得られはしない。あらゆるレベルでの民主主義の深化は、戦いとるに値すると同時に、戦いは必ず報われるはずである。/暴走する世界は、統治を必要としなくなるのではない。これまで以上に統治――民主主義しか提供できない統治――を必要としているのである。(161-162ページ)

 ギデンズがグローバル資本主義の拡大を経済的な利益の拡大にみているのではなく、民主主義の拡大として考えていることがよくわかります。


◇今回の書籍 52/100冊目
『暴走する世界』

避けられぬグローバル化の流れに、我々はどう対処すればよいのか。グローバリゼーションをリスク、伝統、家族、民主主義などさまざまな事象を鍵に読み解く。トニー・ブレア元英国首相のブレーンである気鋭の社会学者、アンソニー・ギデンズによる提言の書。

アンソニー・ギデンズ:著
佐和隆光:訳


本体1,500円+税

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