家庭菜園を楽しんでいる方は、トマト栽培にトライしてはどうだろう。青い未熟な「グリーントマト」が、筋力アップに役立つ、というのだ。米アイオワ大学と退役軍人メディカル・センターの共同研究から。

 研究者らは、筋萎縮症の治療に役立つ低分子化合物の探索過程で、グリーントマト由来の「トマチジン」に着目。ヒトの筋細胞にトマチジンを添加してみると、筋細胞の増殖が観察された。次に健康なマウスの餌にトマチジンを混ぜて食べさせてみた。その結果、筋細胞が発達し、筋力や筋持久力がアップしたのだ。

 研究者らは別に「ムキムキ」成分を探していたのではない。加齢や身体活動量の低下による筋萎縮を抑制する成分を探していたのだが、肝心の筋萎縮もトマチジンの投与で予防、改善されることが示された。しかも、筋肉量が増える一方で脂肪量が減るという副産物もあり、肥満の治療に役立つのではと期待が膨らんでいる。

 筋萎縮、と聞いてもピンとこないかもしれないが、現代人の健康問題に大きく関与している。高齢者に限らず、若年~中高年層でも、ケガや病気で長期入院すれば簡単に筋肉が萎縮し、回復には長期のリハビリテーションが必要だ。また、生活習慣病やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)、ストレスが原因で、呼吸筋など生命活動に直結する筋肉が萎縮すれば、重大な結果につながりかねない。身近な食品で体の内側から筋力アップが図れるのなら、大いに活用したい。

 トマチジンはグリーントマトに含まれるα-トマチンの消化過程で生じる。大本のα-トマチンにも、大腸がんや肝臓がんの増殖を抑える効用があるようだが、毒性があり大量摂取はお勧めしない。とはいえ、害が生じるのは一度に30個以上食べた場合の話だが。

 さて、α-トマチンは熟するにつれて含有量が低下し、完熟するころはほとんど失われる。逆に、もう一つの有名成分、リコピンは熟するほど含有量が増える。つまり、トマトはいつでも健康食品というわけ。庭先で青から赤に変化するトマトを眺めつつ、一夏まるまる旬の健康を食べるのもいい。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)

週刊ダイヤモンド