「官民連携」という言葉をよく耳にする。グローバルでの市場開拓においては、民間の力の及ばないところを「官」がフォローし、道筋をつけるという意味で期待が高い。資金調達をクリアし、現地人脈にわたりをつけられれば、企業は存分に本業に集中することができる。官民の両輪体制が実現すれば、日本の中小企業にとっても心強い。

 だが、この官民連携も現実は歯車がうまくかみ合っていない。

 東京に拠点を置く中小企業A社がアジアビジネスに乗り出したのは数年前のことだった。見本市に参加することからつかんだビジネスチャンスは瞬く間に広がり、インフラ整備事業の一環として、同社は本格的に現地でのオペレーションに乗り出すことになった。

 現地進出の足掛かりはできたものの、ビジネスの段階的な発展とともに資金需要はいっそう増した。しかし、零細にも近いこの小規模な企業にはまとまった資金など調達する術もなかった。せめて現地政府役人との人脈があれば、事業を好転させることもできた。

 公共事業的色彩が強いA社の取り組みがさらなる進展を見るには、現地政府の政策とのリンクは欠かせず、またカウンターパートのローカル企業とも密な連携が欠かせない。それには地元政府や地元関連企業がこの技術を持つ日本企業と向き合い、三方が足並みをそろえて積極的にコミットしていくべきだった。

 それを結びつけるのが、日本の「官」の役割でもある。吹けば飛ぶような中小企業が現地政府の扉を叩いたところで、一顧だにされないことは目に見えている。官民連携のキモは、中小企業の独力では克服できない現実の壁、その困難を少しでも低減させることにある。

 だが「厳しい現実」はA社の経営者をこう突き放した。

「一社だけに肩入れはできない」

 これが「官」からのメッセージだった。