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2030年のビジネスモデル

社長が年間60泊もキャンプに出かけ、
未来をつくる経営

齊藤義明 [ビジネスモデル研究者、経営コンサルタント]
【第18回】 2014年5月22日
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 ユーザーと一緒にキャンプをすれば、スノーピークの社員自身も自らの力量を問われる場面がある。テントの設営、道具の使い方など、もしユーザーの方が社員の知識や力量を上回っていたりすれば、社員は恥ずかしい思いをする。だから社員はユーザースキルを磨き、自分たちが製品に込めた思いを顧客に伝えきれなければならない。

 キャンプでは、ユーザーの不満や苦情などの声が山井さんに直接向けられることもある。間近で生の声を聴くのだから、耳が痛いし、辛いし、逃げられない。だからスノーピークは軌道修正が早いと言われる。社長自らがユーザーと直接交わることによって、最速、最短、確実なフィードバックループが形成されているのである。

 ところで、ユーザーの不満や苦情はわりとすぐに表面に出やすいが、これからどんな商品やサービスが求められるかという未来のユーザーの欲求については、実はユーザーでさえうまく言葉にできないことが多い。

 だからスノーピークの社員は、ユーザーにそれを直接聴いたりはしない。キャンプを通してユーザーのライフスタイルをじっと観察し、これからどんな商品やサービスが求められるかを五感で感じ取るようにしている。

はじめてのキャンプイベントが、
スノーピークのビジネスモデルを変えた

 かつてスノーピークは苦境に陥ったことがある。1995年から2000年まで6期連続で売上が減少し、25.5憶円あった年商は14.5憶円へと落ち込み、売上の40%を失った。キャンプブームを支えていた団塊世代が子どもの成長とともにファミリーキャンプ市場から抜けていき、その影響で市場が小さくなってしまったのが主因であった。

 「もうキャンプ市場は終わった」「スノーピークはキャンプ用品の会社だから来なくていいよ」、業界ではそんな空気が色濃くなる中、山井さんも自信を失っていた。「本当にこの仕事に社会的な存在理由があるのだろうか」とまで考えた。「迷ったら原点に帰るしかない。お客さんに聴いてみよう」

 1998年秋、スノーピークはユーザーとのキャンプイベントを初めて実施した。30組ほどが集まり、焚火を囲んで語り合った。集まったユーザーがほぼ全員、共通して言ったことが2つあった。1つは「値段が高い」ということ。山井さんは、スノーピークの商品は確かに高いが、お客様はその価値を認めて買ってくれていると思い込んでいた。もう1つは、「店に行ってもカタログにある商品が置いていないから、買えない」というものだった。山井さんはその夜、眠れなかったという。

 「ユーザー以外に、私たちの存在理由はない。そのユーザーが高い、買えないと言っている。これを受け止めないでいて、スノーピークに未来はない」、山井さんが初めて本当の意味でユーザーの立場に立った瞬間であったという。

 この初のキャンプから、山井さんはスノーピークの経営モデルを劇的に変えていく。それまで、スノーピークの商品は、もっぱら卸売や小売を通じて提供されていた。小売店はその時の売れ筋商品しか置いてくれないので、スノーピークが提供する300アイテムのうち、10~30アイテムしか店に並んでいない状態であった。スノーピークが表現しようとする世界観が、店先で感じられることはなかった。

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齊藤義明
[ビジネスモデル研究者、経営コンサルタント]

ビジネスモデル研究者、経営コンサルティング会社勤務。政策・経営コンサルティングの現場でこれまで100本以上のプロジェクトに関わる。専門は、ビジョン、イノベーション、モチベーション、人材開発など。

2030年のビジネスモデル

未来のパターンを作り出す企業は、はじめは取るに足らないちっぽけな存在だ。それゆえに、産業の複雑な変化の過程で、その企業はときに死んでしまうかもしれない。しかし個別企業は死んでも、実はパターンは生き続け、10年後、20年後、新しい現象として世の中に広がる。2030年の日本につながる価値創造のパターンとは何か。現在さまざまな領域でその萌芽に取り組む最前線の挑戦者たちとのダイアローグ(対話)。

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