この男性は高齢であった。もしかすると認知症などの問題を抱えており、大家によるサービスというよりは専門的な介護サービスの必要性があったのかもしれない。しかし生活保護利用者たちは一般的に、貧困以外にさまざまな問題を抱えていることが多い。高齢であったり、病気や障害を抱えていたり、育児と職業で疲弊している「ひとり親」であったりする。家庭教育・学校教育・社会教育を含めて、充分な教育機会を得られなかった生育歴を語ることも多い。充分な日常生活スキルや社会生活スキルを保有していないことも珍しくない。生活保護利用に関する偏見が強い地域では、「住ませていただく」のために家賃を上積みしなくてはならない場合もある。

 このような多様な「サービス」の部分がなければ、生活保護利用者の「住」が確保されたとはいえない。それは、福岡市の事例からも読み取れるのではないだろうか。

 住宅扶助に含めることが適切かどうかはともかく、「サービス」部分の評価と、その「サービス」に対する妥当な支払いの必要性は、部会委員のほとんどが感じているようだ。たとえば委員の岡部卓氏(首都大学東京・社会保障論)は、

「一点目、一定、この水準であるならばこの家賃という目安は出せないかということ。二点目。住居が不安定な方への初期費用、更新料。敷金礼金。妥当性を持っているかどうかということ。三点目。その他の論点。悪質な、家賃を搾取するような貧困ビジネスへの対応をどう考えるのか」

 と多面的な検討の必要性を指摘し、さらに、

「住宅費以外のコスト、食費、管理、対人サービスといったもの。住宅の適正な値段として住宅扶助を考え、その他のサービスは別立てで考えるべきでは」

 と発言した。部会長の駒村康平氏(慶應義塾大学教授・経済学)も、生活保護利用者の家賃実態が高くなる可能性とその原因について

「意味のない加算ではなく、(筆者注:生活保護利用者のもつ)ハンディを埋めている側面も」

 と発言している。

「意図的」「恣意的」ではない住宅実態データは
どうすれば得られるのか?

 では、生活保護世帯の「住」の実態は、現在どうなっているのだろうか? 実は現在、比較・検討すべきデータそのものがないのである。厚労省がこれから調査を行おうとしている段階だ。一般世帯の「住」の実態については、5年おきに行われている「住宅・土地統計調査」があるのだが、これと比較可能なデータは、生活保護世帯の「住」に関しては存在しない。現存するデータは、「被保護者調査(旧・被保護者全国一斉調査)」の一環として得られたもののみである。その内容は、基準部会で厚労省が配布した資料(7ページ)によれば、

「現在、生活保護受給世帯の居住実態については、毎年、被保護者全国一斉調査(平成24年度より被保護者調査)により、実際家賃・間代の金額階級別の世帯数を「公営住宅等」「その他(民営住宅)」別に把握している」

 というものだ。面積・設備・付帯サービス等については全く情報がない。