大学の教育は変わらなければいけない

河合 イギリスに対してアメリカはまったく逆で、手取り足取り、わかりやすく教えます。わかりやすく教えなかったら人気が下がる。そこで苦労する必要はないという考えでしょうね。わからないものを一所懸命読むよりも、そこはサラッとやって、余った時間でクリエイティブなことをやろうと。

 私はそういう教育を受けてきたので、授業はわかりやすくなければいけないと思っています。ただ私が気になるのは、塾で手取り足取り教えられているからか、自分で勉強する習慣のない学生が増えていることです。調べればすぐわかることでも質問する。

高橋 昔みたいに、ハングリーになってがんばる学生を前提とした仕組みは、機能しないと思います。知的にも、体力的にも。情報はインターネットでいくらでも入ってくるし、食べ物にも困らないし、モノも何だって買えますから。

 これは日本だけではなく、先進国全般でそうですよ。中国も急速にそうなっている気がします。教え方も同じで、昔のようなやり方では効果を出せなくなっているかもしれませんね。

河合『自分の小さな「鳥カゴ」から飛び立ちなさい』(ダイヤモンド社)にも書きましたが、最近のインターネットで無料配信されるedX(エデックス)やCoursera(コーセラ)などはとてもいいと思います。各大学のスター教授がわかりやすい授業をしていますね。わかりやすい授業だけではなく、教材なども無料でダウンロードできるように工夫がなされています。また、コースを取ったという証書が出る場合があり、受講者が増えています。

 アメリカの大学間では、将来、アメリカの大学の50%は潰れてしまうのではと言われるほど危機感が増しています。アメリカの大学の授業料が、私立の場合で年間500万円近くになってきていることもありますが、日本の大学も危機感を持たなければいけませんね。授業をわかりやすくするなど、教員がもっと努力する必要があると思います。

高橋 そういえば、日本経済新聞の「私の履歴書」ですごくおもしろい連載がありました。もうだいぶ前に亡くなられましたけど、帝国ホテルの村上信夫シェフの話。

河合 私も読みました。

高橋 下積み時代、ソースの味を盗みたくても盗ませてくれないから、みんなボロボロ辞めていく。村上さんがえらいのは、自分がシェフになったときには、全員にレシピを出させたことだと思います。「見える化」させたんですよ。これからの時代、自分が育ってきたようなやり方はもうダメだとわかっていたからこそ、上に立てる人だったと思いますよ。

 いまの大学の先生は、世の中の環境がどう変わっていて、自分たちの教え子が社会に出ると、どんな環境で、どのように活躍していくのかを、どれだけわかっているのだろうと思います。とても大きく変わってきているので、それに合わせて、自分の教え方をどのように変えなければいけないかを、もう少し考えなければいけないよね。