目先の利益にとらわれることなく
正しい問いに、正しい相手と取り組む

並木 私がマッキンゼーにいた時の話を少しさせていただくと、確かにクライアント・ワークはエキサイティングで充実感があった一方で、常に私の脳裏から離れない想いもありました。それは、コンサルティングという活動が、3ヵ月や半年という単位のプロジェクトで答えを出していくことを繰り返しながら、本当にクライアントの抱える根っこの課題を正しく捉えられているのか、そして、それに応えられているのかという疑問です。もちろん、クライアント企業とコンサルタントは、プロジェクト期間中だけ会話をしているわけではなく、その合間にたくさんの議論もしています。ただ、どうしても次の仕事を獲りにいくという業務も加わるので、純粋にクライアント企業の問題やその改善点だけを見つめている時間とは言いがたい。

 提案だけで終わるのではなく、実際に導入するところまで支援する。そしてそのリスクをコンサルティング・ファーム側も負う。さらにはその価値を、世の中に伝えていくお手伝いもする。そういったコンサルティングの姿があってもいいのではないかと思って独立を決意したんです。

コンサルタントが売っているのは<br />改革者への“エネルギー”だインタビュアーの並木裕太さん

火浦 そういう問題意識は確かにあります。

 ただベインの場合は、創業者の理念として、クライアントに対して大きなファイナンシャル・リザルト、つまり財務的な成果を出すことを明確に打ち出している。そのためには、3ヵ月や6ヵ月のプロジェクトでは結果は出ません。クライアントの経営陣も含む組織階層とがっちりスクラムを組んで、一番難しい課題の解決にむけて長い期間一緒に汗をかく必要があるのです。売上げの有無に関わりなくクライアントと常に議論を継続していなければいけませんし、さらに言えば、その議論はパートナークラスのシニアな人間が時間を使わないといけない。

 つまり、パートナーはたくさんのクライアントを一度に抱えられない、ということなんです。ですからベインでは、「このクライアントを何とかしたい」と情熱を持てる企業を各パートナーが持ち寄って、オフィスとしての優先順位を決め、売上げの有無に関係なくパートナーの時間を使うということを許容しています。逆に言えば、そのような関係を構築できないクライアントとは仕事をしなくても良いという割り切りがあります。

 昔はオフィスの壁にクライアントの株価推移を書いた模造紙が貼られていて、株価が下がると担当パートナーが創業者のビル・ベインに呼び出されることもあったと聞きます。しかもコンサルタントを叱って終わりではなく、結果が出ない理由が、クライアントにこちらの提案をきちんと実行する気がないというところにあると分かったら、そのクライアントとの仕事を打ち切ってしまう。それぐらい徹底しているんです。

 クライアントが「こういうことを言ってほしい」と思っていたとしても、違うと思えば「それは違う」とはっきり言う。それによって大きな売上げを失うことになっても構わない、という考え方なんですね。ですから、いろいろなご相談をいただきますけれども、お断りすることもかなり多い。私たちは、日本で最も仕事を断るコンサルティング・ファームかもしれません。そうした理念があるおかげで、並木さんの言われたようなフラストレーションをそこまで感じずに済んでいるのかもしれません。

並木 目先の利益にとらわれず、正しい問いに対して正しい相手と取り組むというポリシーを持っているからこそ、私が感じてきたような疑問は生じにくい、ということですね……。コンサルタントとしてうらやましい、理想的な姿だと思います。

火浦 やっぱり一番大切なのは“パッション”だと思うんです。そのクライアントの成功に自分が貢献したい、という情熱を持てるかどうか。それが意思決定の前提であって、そういう気持ちが持てなければお断りする。まあ言い方を変えれば、商売下手なんですけどね(笑)。