印象派が生まれた背景には、技術革新と近代という時代がある。

 例えば絵の具一つとっても、それまでのものは顔料をすりつぶしオイルで練る必要があったため、室内でしか使えなかった。近代になり持ち運べるチューブ式の絵の具が発明されたことで、屋外での創作が可能になった。それを受けて印象派の画家たちが描いたのは戸外の光の変化であり、あるいはモネが描いた近代化によって失われていく自然だった。

 季節の移ろいを描く作業と、旬の食材を味わうことは、彼にとってよく似た行為だったのかもしれない。

 画家たちには苦悩を作品で表現する人もいるが、モネの作品からはそういった要素は感じられない。彼は失いつつある視力に悩みながらも、そうした苦しみは池の底に沈め、水面に浮かぶ美しい光だけを描き残した。

 また、モネは食卓に客人を招くことを好んだ。彼にとって料理や絵画は生の美しさを分かち合うためのものだった。食卓を囲むことは何にも替え難い喜びだ。そう、人がものを食べるのは生きるためだけではないのだ。

※参考文献/
「野菜の旬と栄養価 旬を知り、豊かな食卓を」辻村 卓著(『野菜情報 2008年11月』)
『モネの食卓』クレア・ジョイス、ジャン・ベルナール・ノーダン著

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