骨折入院で認知症が進行するような
「臓器別医療」を否定、「全人的な医療」へ

 こうした算定条件を設けたのは、いずれも「複数の慢性疾患を有する患者」を対象に「継続的かつ全人的な医療を行うことについて評価を行う」ためだと厚労省はその意図を記す。この一文は、厚労省の医療政策の方向転換を示す素晴らしいものだ。社会保障制度改革国民会議の提案を引き継いだ考え方といえよう。

現行の医療は臓器別に分かれて専門性を強調している。それでは「複数の慢性疾患を有する患者」、即ち要介護高齢者に対応できない。なぜなら、あらゆる臓器が劣化しつつある要介護高齢者には、全人的医療が必要だからだ。

 こんな事例がよく聞かれる。歩行器を押して外出した軽度の認知症の高齢者が商店街の段差で転倒し、大腿部頸部骨折で入院。人工骨の手術を受け、リハビリに励んで1ヵ月弱で退院してきたが、家族は認知症の急激な進展にビックリした。相部屋の入院で生活が一変したため、認知症があっという間に進んだのだ。

 手術をした担当の整形外科医には、認知症の知識はほとんどなかった。ひたすら大腿骨の異常を治し、歩けるようにリハビリ指導にあたった。狭い4人部屋で蛍光灯と白壁に囲まれた生活感のない病室が認知症に悪影響を及ぼすかどうかは、治療の範囲外。全く無頓着であった。臓器別医療のこうした弊害はよくあることだ。

 厚労省はこのような実態を踏まえて、「全人的な医療」を掲げ、臓器別医療からの離脱を促し始めたのである。患者を高齢者に多い疾病を複数持つケースに限定し、より要介護高齢者に絞ったのも、全人的医療を目指そうという意思の表れだ。その疾病は、認知症、高血圧症、糖尿病、脂質異常症の4つで、うち2つ以上を持つ患者としている。

 この地域包括診療料は、患者を月1回以上診れば診療回数に関係なく一定の1万5030円とした。包括方式である。介護保険の小規模多機能型居宅介護や24時間の訪問介護看護などで導入された方式だ。だが、医療保険の外来診療は、診療ごとに報酬が得られる出来高方式しかなかった。そこは初めての包括方式の登場。当然、従来方式に固執する日本医師会が猛反発した。そこで妥協案が生まれる。

 診療内容は「地域包括診療料」と全く同じ「地域包括診療加算」を別に設けた。こちらは包括方式ではなく、出来高制で、1回の診療が200円の報酬という制度だ。既存の受益者、業界団体の賛意を得られないと改革が進まない日本社会でよくあることがここでも起きたようだ。