日本航空(JAL)の経営再建策を巡り、突如として注目を集めている「企業年金」。
企業年金は、企業の退職給付制度のひとつで、退職金が年金形式で支払われるもののことです。
破綻すれば飛行機の運行に支障が出て、国民が不便を強いられるという理由から、JALには公的資金の注入が検討されています。
そのため、公的資金が実質的にOBたちへの年金支給に使われてしまうことへの反発や、そもそも他の企業に比べて年金給付額が高かったことに対する嫉みも加わって、企業年金の給付額を引き下げるかどうかが焦点になっているというわけです。
しかし日本の企業年金は、その大半が退職金から切り替えられたもの。退職金は「賃金の後払い」的性格を持つことから、年金の受給権者であるOBたちからすれば、「退職金の一部を年金制度に切り替えただけなのに、なぜ減額されなければならないのか」という気持ちがあることでしょう。
実際のところ、給付減額のハードルは高いといわざるを得ません。企業年金の給付を減額する条件は、企業の経営が悪化していることに加えて、これら全受給者の3分の2以上の同意が必要だからです。
とはいえ、JALの場合、退職金相当分以上の企業年金給付の維持を求めることも難しそうです。
実は、JALのように実質的に破綻している企業の場合、企業年金はその制度を廃止するのが通常です。その際、企業が現時点で確保している年金資産を分配する方法を採るため、受給権者たちの給付額も減ってしまうことは避けられないのです。
であれば、OBたちも、いずれはある程度の減額に応じざるを得なくなるのではないでしょうか。
問題は、減額についてOBたちが一定の理解を示しているにもかかわらず、JAL側が話し合いに応じていないことです。ついには、強制的に減額できる特別立法という荒業まで飛び出すに至っており、OBたちの不信感は募るばかりでしょう。
さて、今回の特集では、そんな「退職金・企業年金」にフォーカスしました。プロローグでは、JALを巡る給付減額紛争の争点は何なのか分析し、その行方を追います。
「パート1」以降では、複雑な退職金・企業年金制度について、とにかくわかり易く解説するよう心がけました。パート1は、これらの制度を丁寧に説明していくとともに、基礎用語集も加えました。読者の理解を助けてくれるはずです。
こうした退職金・企業年金を取り巻く危機的状況は、何もJALに限った話ではありません。「パート2」では、何故今退職金・企業年金が危機に陥っているのかを詳しく説明します。
実際に、退職給付制度が維持できそうにない企業はどこなのかについても、4つの指標による危険度ランキングで炙り出します。
では、企業や個人はどう対処すればいいのか。「パート3」以降では、具体的な企業の改革事例や、個人の資産形成ノウハウも加えて紹介します。
2012年3月末には、多くの企業が実施し、かつ積立不足も多い「税制適格退職年金制度」が廃止されます。公的年金の給付開始年齢が引き上げられ、給付水準の維持も困難と見られるなか、定年後の収入を支える上で期待の高まる退職給付制度は今、大きな転換期を迎えています。
本誌を読んでこれらを理解することが、定年後の生活を守る第一歩となるはずです。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 池田光史)