鎌田實医師も混合診療に反対
「金の切れ目が命の切れ目」を憂うる声も

 反対の論調は高まる一方で、主要大手紙も日本経済新聞を除くと反対に近い慎重論だった。日医や全国自治体病院協議会、日本精神科病院協会など40の医療や福祉系の団体で構成する「国民医療推進協議会」は5月14日、「断固反対。安全性などを十分担保していない」との決議を採択した。

 より広い国際的な視点から反対するのは諏訪中央病院の名誉院長で、「頑張らない」の鎌田實医師。

 1月14日の毎日新聞の連載コラムで「混合診療を全面解禁すると、危険のある治療法や、評価が定まっていない治療が安易に行われ、国民の安全を守れなくなる」「国民の間で受けられる医療に格差が生じる」と一般論の後で持論を展開する。「米国は医療を自由競争にすべきだと考えている。その第一歩として混合診療を全面解禁したいと狙っている。公的な医療保険でカバーできない医療が増えれば、民間の保険が入り込みやすくなる。いつか米国のように国民皆保険制度がなくなってしまう可能性がある」と説く。

 国民皆保険制度が崩壊する第一歩と「憂うる」識者は少なくない。「製薬会社の保険適用意欲が薄れ、保険診療の範囲が縮小してしまう」「利益を求める製薬会社や医療機器メーカーが保険診療に移行させない可能性がある」と予測するからだ。

 患者団体からも「安全性が不確かな医療だと健康被害のリスクが高い」と反対論が噴出した。保険外の薬や治療法は高額になる事実をとらえて「金の切れ目が命の切れ目になりかねない。迅速に保険適用すべき」(悪性リンパ腫患者のグループ・ネクサスジャパン)とも主張した。

「高額の治療に備えて民間保険に加入せざるを得なくなる」との声も聞かれる。

 所得の多寡にかかわらず、誰でも必要な医療が受けられるのが国民皆保険制度。その理念が揺らぐ可能性は確かにありそうだ。だが強固な障壁で規制をあまりに強めると、規制外サービスの必要者が排除されてしまう。

患者本位、審査の短縮、地域医療を活用
安倍首相が風穴を開けた「患者申し出療養」

 安倍首相が反撃を開始したのは6月10日。「患者の希望があれば、一定の条件の下で全国の病院や診療所で実施できる新制度をつくる。患者本位のより迅速に必要な治療を身近な場所で受けられるようにしたい」と表明した。2週間後に発表する成長戦略に「患者申し出療養」を盛り込む案が固まっていたのだろう。同制度は日医などに配慮して「選択療養制度」からかなりトーンダウンさせた。

「安全確保の仕組みを十分説明できなかったため、不安を与えた」(規制改革会議の健康・医療ワーキンググループ座長・翁百合日本総研理事)と言うのが建前の理由だ。反対論者の危惧をかわすための「歯止め」を設け、併せて誰も反対できない患者主導を強く打ち出し混合診療の拡大へと風穴を開けた。