格安航空会社(LCC)の経営破綻ラッシュが世界規模で巻き起こっている。ハワイ路線を展開してきたアロハ航空が3月下旬に倒産したのに続き、ATA航空、スカイバス航空、フロンティア航空など、米国で4社が相次ぎ破綻へと追い込まれた。さらにアジアでも、4月に香港のオアシス香港航空が運航開始からわずか1年半で破綻した。
「ギブアップするLCCは、アジア系を含めてまだ出てくるだろう」と業界関係者。米国の景気減速で利用客数が低迷しているうえに、燃油費は高騰を続けている。航空業界全体が逆風の経営環境にあるが、小規模な新興企業が多いLCC市場はとりわけ深刻だ。信用収縮によって小規模LCCは資金調達がままならず“泣きっ面に蜂”状態なのである。
オアシス香港もやはり資金が回らなくなり、欧米とアジアを結ぶ「長距離LCC」という新しいビジネスモデルへの挑戦は、運航停止という無残な結果に終わった。
大手航空会社系LCCのなかには、我慢比べ状態の今は勝敗を決するチャンスととらえる向きもある。収益減で苦しいのは同じだが、彼らには与信面で親会社の支えがあるからだ。
関西国際空港や中部国際空港にも就航している豪カンタス航空の格安航空子会社・ジェットスター航空は「独立系の小規模な航空会社に比べると、燃油を競争力のある価格で購入でき、コスト削減が可能」といったアドバンテージも主張している。
LCC市場に未参入である国内航空会社の出方はどうか。全日本空輸(ANA)は、“低価格”でも真っ向勝負を挑む。LCC設立に向けて海外での合弁相手や買収先を探している最中だ。「航空会社の身売り話が増えている」(業界関係者)だけに、「慎重にLCC市場を研究していくが、相手先を見つける好機かもしれない」(ANA関係者)と見る。
日本航空(JAL)は、少なくとも現・中期経営計画(2008~10年度)のあいだにLCC市場に参入する戦略はないと言い切る。海外から客室乗務員を採用して人件費を抑制することで運航コストを一割削減する“JAL版格安便”の割合を07年度の25%(国際線のみ)から10年度に38%まで引き上げる計画を進めているが、あくまでもコスト改善策の一環だ。LCCの土俵で低価格勝負は仕掛けず、むしろ高級化路線を推し進める。
一方、独立系LCCも耐え忍ぶばかりではない。ビジネスクラスなど高価格帯サービスを積極的に打ち出す企業もある。収益性を高めるために、大手航空会社の領域を侵食してきているのだ。
淘汰の嵐を生き抜いたLCCが、成田と羽田の空港再拡張によって発着容量が拡大する10年以降に日本へ本格進出すれば、ANA、JAL両社揃って厳しい戦いに直面する。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 臼井真粧美)