公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が発表した2007年度の運用損失が5.8兆円(運用利回りはマイナス6.41%)になったことに関連して、閣僚からの発言が相次ぐなど、波紋が広がっている。これをチャンスと見て、政府系ファンド(SWF)の創設に動こうという人たち、あるいは、そもそもリスクを取って運用したのが間違いだと主張する人たちなど、議論が錯綜している。
7月4日付けの朝刊では、全国紙のいくつかが運用損の事実を淡々と伝えたが、読売新聞は一面トップで取り上げていた。また、英国のロイター通信は7月5日付のニュースで「公的年金2007年度運用損で閣僚発言相次ぐ」と伝えるなど、ホームページでも詳しく報じていた。ロイターは金融機関向けに情報サービスのビジネスを持っているので、金融業界が潤うSWFを設立する方向に展開して欲しいと感じているような印象を受けた。
GPIFがかなりの運用損を出しているであろうことは、実は、発表前からある程度予想できる話だった。この種の大きな資金の運用成績は、アセットアロケーション、つまり国内株と外国株などへの資金配分で90%以上が説明できるからだ。
GPIFは2007度末の時点で日本株に運用資金の11.50%を配分しているが、日本株のベンチマーク収益率は約28%のマイナス。外国株には9.10%配分し約17%マイナスだ。外国の債券には8.06%配分しており、年度を通じて円高に動いていたのでやはりマイナスだ。これでは、損が出るのは当然だろう。
とはいえ、損をしている年もあれば、利益を出している年もある。そういう意味では、ある程度の期間をならして見ないと公正ではない。管理運用法人全体の運用利回り(財投債を含む)としては、平成19年度分を含めた過去5年間の平均で、約4.03%のプラスだ。特に2005年のプラスが大きかった。それもそのはずで、この年は、東証一部だけでも4割以上上がっていた。彼らのいう市場運用分では5年間の平均で、5・7%のプラスだ。
年金積立金全体の長期的な運用目標は、名目賃金上昇率プラス1.1%と設定されている。したがって、過去5年間については、十分目標を上回った運用になっていたといえる。
しかし、メディアの取り上げ方としては、とにかく「損をした!」と書かれる。損を出したのは前年度の現実であり、しかもGPIFが注目されている以上しょうがないが、報道のニュアンスは些かバランスを欠いているように思う。