挫折した合理主義と分析、人の熱意を引き出せない冷めた組織

 ピーターズたちも、調査プロジェクトの当初は戦略と機構面からのアプローチに集中していたと述べています。周囲も、組織づくりの構造の問題を新しく見直すだけで十分ではないかと考えていたのです。例えば、次のような質問です。

「マトリックス組織が70年代の流行──ただし明らかに効果のあがらない──だったとすれば、80年代の機構とはいったいどんなスタイルか?」(同書より)

 しかし二人は、調査を通じて重要なことに気づきます。組織づくりをするのは何のためかということです。彼らはアメリカ企業の多くが、経営管理用の小道具に目を奪われて、より高い次元の技法に考えが及んでいないことを見抜いたのです。

「私たちが異論を唱えたいのは、方向を誤った分析、複雑すぎて実用にならない分析、厳密すぎて扱いにくく柔軟性のない分析、本質的に予知不可能な(とくに時期が不適当な場合)分析(中略)、現場から離れた管理者が現場に対して、管理中心の考え方で展開した分析等々である」(同書より)

 彼らが全米の優良企業の調査で発見したのは、「全体の能率」を求めて機構をいじくる人々が、心を一つにして働く小集団に敗れる姿であり、研究開発部門の綿密な製品プロジェクトが、全身全霊うちこんだ達人の小グループにとって代わられる姿だったのです。

 合理主義と管理は、顧客を大切にする意義を教えず、計数管理は、たったひとこと従業員に声を掛けるだけで、彼らがどれほど仕事に一体感を抱くかを教えてはくれないのです。

「人間要素」が製品やサービスを卓越させる

 では、60社以上の調査でまとめた、超優良企業を“エクセレント”にしている特質とは一体どんなものだったのでしょうか。

【革新的な超優良企業の8つの特質】
(1)行動の重視
(2)顧客に密着する
(3)自主性と企業家精神
(4)人を通じての生産性向上
(5)価値観に基づく実践
(6)基軸から離れない
(7)単純な組織・小さな本社
(8)厳しさと緩やかさの両面を同時に持つ

 8つの特質をやや強引にまとめれば、主に次の2つの要素を持つと推測できます。

(1)大きくなっても小さな組織の俊敏さを維持する

 卓越した企業は巨大組織になったのちも、小さな創業期から成長をする過程までにあった、本来の俊敏さや決断の速さ、迅速な行動力を失わない対策を持っています。分析ばかりの会議、行動をのろまにする組織階層の多さなど、組織の膨張により発生するデメリットを意識的に排除して“成長した時期”の組織特性を維持しているのです。

(2)仕事に熱狂する動機づけができる企業文化を持つ

 ホワイトカラーとブルーカラーが完全対立するような組織ではなく、社員全員が仕事に熱狂する動機づけが「企業文化」と一体になっていること。人は人生に意味を求めており、優秀でありたい、評価されたいと願う、人間の基本的欲求に合致した動機づけが必要です。卓越した企業は「社員が仕事に熱狂する意味づけ」が正しく強固にできているのです。

『エクセレント・カンパニー』の洞察の素晴らしさは、2つの要素の逆をイメージするとより明白になります。成功して社員数が増えた企業は、当初の自由な意思疎通や、目端の利く俊敏さも失い、のろまな象になることが多いはずです。組織が大きくなれば、指示待ち社員、やるだけ社員が自然に増えてしまい、野心的なベンチャーだったころの「社員全員の仕事への熱狂」は自然に消えてしまうものです。

 ピーターズたちが解明した「卓越したアメリカ企業」の特質は、成功と成長から生じる2つの大きな落とし穴を避ける、賢明な仕組みと文化を兼ね備えていることだったのです。