そもそも、州政府に意欲がなかったわけではない。「発展戦略2025」という州の長期経済成長戦略を策定している。これは、2025年までにサハリン州で「州内総生産を3倍以上、貿易高を6倍以上」という目標を掲げたものだ。

 発展戦略の主な課題は、①インフラの未整備状態の解消による社会産業基盤の近代化、②生産部門の技術革新と近代化、③天然資源の高度加工による新しい産業の振興、④近代的な市場経済サービス発展と品質重視のサービスの普及、⑤所有権保護、市場競争性の強化、投資リスクや企業リスクの低減、行政的障壁の低下、行政サービスの向上、⑥教育、保健医療、文化、体育スポーツ、住宅など快適な生活環境形成の社会インフラの改善、⑦高度な労働力への需要に対する職業教育、⑧社会福祉サービスの充実と高度医療センターの設立、⑨確かな住宅市場の形成、住宅投資の拡大、の9つである。

 サハリン州の福祉政策は、ロシア崩壊後、最低限の生活水準を提供する程度にとどまってきた。しかし、北海油田の収入を福祉国家建設につなげたノルウェーのように、エネルギー収入を福祉の充実につなげたいという発想はあるようだ。それは、医療の向上と、保育園や学校建設のような教育から始められている。

 医療については、子どもに対する医療技術の向上に重点的に予算が配分されている。サハリン州では男性の平均寿命が女性より10歳以上短い。それは、幼児の時に男児がなくなることが多いからだという。また、ロシアの医師のステータスの低さが問題だという。要は、医師の給与水準が低く、優秀な人材が医師になることを志さないのだ。その解消のために、医師の給与が大幅に引き上げられている。

 教育については、保育園設置の自由化が挙げられる。サハリン州に保育園は159園ある。しかし、近年の経済成長により出生率が上昇し、保育園は不足気味となっている。そこで州政府は、2012年から新しいプログラムを導入した。現在、州内の1-6歳の児童の80%が保育園に通えているが、保育園に通えない残り20%の児童に対しても、週1回保育園で授業を受けられる仕組みを作っている。授業では、数字、文字を教え、小学校入学前に必要な知識、学力を身に着け、保育園に通う子との間で格差が生じないようにしている。また、保育園設置の規制緩和によって、幼児8-25人でグループを作れれば、プライベートで保育園を作れるようにもしている。

 サハリン州では中長期的な戦略として、「人材育成」が最重要視されている。石油・天然ガス開発が欧米、日本、モスクワから派遣された人材で運営されているが、地元の人材がほとんどいない現状があるからだ。