人は暗示で簡単に誘導される

 相手と良好な関係を築きながら、「自分の提案にイエスと言わせたい」「商品を買ってほしい」「要求をのんでほしい」「自分の思惑通りに事を進めたい」といった場合には、相手の思考や行動を誘導していくためのテクニックが必要になります。

 とはいっても、決して難しいものではありません。私たちは無意識に、他人を誘導する働きかけを日常的に行っています。

 たとえば、友人が頼んだ料理を見て、「わあー美味しそう!」と思わず言ってしまうことってありますよね。すると、友人は例外なく「食べる?」と勧めてくれるはずです。あなたの働きかけによって、友人が「料理を分けてあげる」という行動へと誘導されたのです。

 豪快な食べっぷりで人気を誇る、日本テレビの水ト麻美アナウンサーも「ロケに行くだけで『これ食べなさい』と勧められる」と言っていますが、これも美味しそうに食べるという行動が、「これもどうぞ」という相手の自発的な行動を呼び起こしています。

 誘導は「ちょうだい」「食べたい」と直接的な命令やお願いをすることなく、「自分が選んだ」「自分の意思で動いた」と相手が思ってこそ意味があります。友達があなたに料理を分けてくれたのも、あなたが本当に美味しそうだと感じている様子に反応したのです。

 だからこそ、意図的に相手を誘導するときは、こちらの思惑に気づかれないよう、あくまでさりげなく、自然に行うのがポイントです。「あ、この人、こちらを動かそうとしているな」と気づかれてしまえば、相手にとっては「命令」「強制」になってしまいますから、誘導やコントロールは難しくなってしまいます。

 そのために必要なのが「暗示」のテクニックなのです。暗示のテクニックは「言葉」と「しぐさ・行動」の大きく2つに分けられます。ここでは「言葉」によるコントロールのテクニックを3つほど紹介しておきましょう。

お願いごとに確実にイエスと言わせる「イエスセット」

「イエスセット」話法は、同意してもらえる単純な質問を重ねることで、反論・否定をしにくい雰囲気を作り出し、同意するセット(心がまえ)へと相手を誘導していく暗示テクニックです。

 コミュニケーションの本などではおなじみのテクニックなので、耳にしたことがある人も多いでしょう。

 人には「一貫性の法則」という心理があります。自分の言葉や行動、信念などを一貫性のあるものにしたいという心理です。これを利用して、「同意」をキャナライゼーション(水路づけ、方向付け)してあげれば、人は「イエスと答えるのが当たり前」という道筋を自分で選び取っていきます。