販売員「雨が降ってきたようですが、傘はお持ちでしたか?」
お客さま「ええ、天気予報を見てきたから」
販売員「天気予報のチェック、欠かせないですよね。最近は、ゲリラ豪雨も多いですし」
相手「そうよね。雷もすごくて怖いときもあるわよね」
販売員「確かに雷って怖いですよね」
お客さま「そうなの。外に出てると、もう気が気じゃなくて」
販売員「そしたらここに逃げ込んでください(笑)」
お客さま「そうさせていただくわ(笑)」
販売員「秋冬物も昨日入ってきたところなんですよ」
お客さま「そうなの? どれかしら? (あれ? 何となく入っただけなのに、ちゃんと見ることになっちゃった。ま、いいか……)」
「イエスセット」話法は、初対面のお客さまの心をつかみたいときに効果を発揮します。「イエス」と同意するということは、相手に共感したことになります。お客さまは知らず知らずのうちに販売員に親しみを抱き、聞く耳をもってくれるようになるのです。「いらっしゃいませ。よろしければ、お手にとってご覧ください」と挨拶代わりに口にするより、何倍も効果的です。
ポイントは、必ず相手が「イエス」という話題を選ぶことです。常識となっている事実、相手やお客さまが好みそうな内容を選ぶのがコツです。よく、営業マンや販売員は天気の話をしますが、イエスを引き出す前フリとして使い勝手がいいからなんですね。
このほか、「イエスセット」話法は、「欲しいイエス」のハードルが低い“軽いお願い事”にも効果的です。「コピーをとってほしい」「買い物をしてきてほしい」「郵便局に行ってほしい」くらいの“軽いお願い事”であれば、イエスを3、4回繰り返すだけのシンプルな会話でも十分に効果があります。
“ハードルの高いお願い事”――彼女をデートに誘う、お客さまに高額の商品を買っていただくなど――でも、普段から「イエス」を引き出す会話を心がけておくことで、心を開いてもらいやすくなります。
自分がイエスを繰り返して相手に同意させる「パワーイエス」
この逆のバージョンで、「パワーイエス」というテクニックもあります。相手からの問いかけに対し、「そうだよね! そうそうそう!!」と全面的に同意していくやり方です。
自分の意見を全力で肯定されれば、誰でも嬉しいものです。何回かパワーイエスを繰り返したあとに、お願い事などを口にすれば、まず反論や否定は返ってきません。以前にも述べましたが、「こんなに同意してもらったんだから、こちらも同意しなくては」という「好意の返報性」の心理が働くためです。
「ダブルバインド」で無意識にイエスを引き出す
「ダブルバインド」は「二律背反」「二重拘束」という意味です。相反する物事が成立してしまうという、矛盾をはらんだ状況を指します。
上司から「指示待ちではダメ。自分で考えて行動しろ」と言われて行動したら、「なんで、事前に相談しないんだ」と叱られてしまった……。こんなときは、「命令に従っても、従わなくても叱られる。じゃあ、どうすればいいの!?」と思考停止に陥ってしまうことでしょう。これを応用したのが、「ダブルバインド理論」です。