「サービス業とも言えるが、業態から言えば装置産業だ。ジェット旅客機という巨額の装置に投資して、そのジェット旅客機を使って利益をあげている。巨額の設備投資が必要な鉄鋼会社や製紙会社などと同じ業態だ。巨額の設備投資が必要な会社は巨額の借金を抱えているのが一般的なんだ」
「そうなんですか」
高橋はそう言ったが、ANAの借金が多いことより、「ANAはサービス業というより装置産業だ」と言われたことの方が新鮮な発見だった。
「BSの右側を見た後は、BSの左側を見る。BSの左側には集めてきたお金が何に投資されているかが書かれている。ここに企業の戦略が表れる。ただ、何に投資されているかを見るには財務諸表の細かい項目と数字を見なければわからない」
「ANAは何に投資してるんですか?」
「後からBSの細かい数字を見ればすぐにわかるが、航空機に莫大なお金を投資している」
「な~んだ、当たり前じゃないか」
と高橋は思ったが口には出さなかった。
「次に見るのは、投資した総資本、言葉を換えれば調達した総資産をいかに活用して売上高を作っているかだ。そして最後が、その売上高をいかに効率よく利益に変えているかだ。それは、この粗利や営業利益の線がどこにあるかを見ればわかる」
高橋は、財務分析の手法としては、ホワイトボードに書いてあるBSとPLの図の見方と同じだけど、実際の数字が書いてあるとリアリティがあると思った。
同業他社比較と期間比較を行う
「ただ、残念なのは、我々はこの図を見ても評価ができないんだ」
「?」
高橋は石田の次の言葉を待った。
「例えば、ANAの営業利益率が4.1%であることはこの図を見ればわかる。PLの右下にそのように書いてある。しかし、この営業利益率4.1%という数字が、航空業界において良い数字なのか悪い数字なのかが我々会計の初心者にはわからない。会計の専門家は日々たくさんの財務諸表を見ていて、彼らの頭の中にあるデータの蓄積と目の前の数字を比較できるから財務分析ができるんだ」
「じゃあ、会計の初心者にとっては、ここが限界ということですか?」