売り主としては少しでも高く売りたい。したがって「高い査定金額を付ける仲介業者に頼みたい」と考えるはずだ。

 どの仲介会社に取引を仲介してもらうか決めるときに注意したいのが、売り主の心情を逆手にとる、ずる賢い業者だ。売り主からの専任媒介契約が欲しいために、妥当な金額よりも上乗せし、その金額で売れる保証などないにもかかわらず、「この金額で売れるように頑張りますので、わが社を仲介会社にしてほしい」と売り主に迫るという。

 しかし、売り主の希望通りの価格で売れることは稀だ。

 仲介会社が「頑張ります」と言っても、決めた金額が市場での妥当価格でない場合は値下げせざるを得なくなる。初出売り出し価格で売却できない状態が続けば、仲介会社から値下げの提案が来ることになる。

 あるいは、「売り出し価格より○○万円安ければ買うというお客様がいますが、どうしますか?」と言われる場合もある。どちらにしても現在の売り出し価格よりも下回る金額での売却となることは避けられない。

 だったら初めから妥当な金額で売り出した方が良かったのではないかという疑問を抱く人も多い。その方が早く売却でき、気が楽だということだ。

 業界関係者などに聞くと、中古物件にも鮮度があり、価格を下げた物件や長い期間売り出されているような物件は敬遠される傾向にあるという。とくに、ネット上で物件写真などが見られる今は、その傾向が強いという。

 つまり、無理に高い金額でスタートすると、結局は相場よりも安く売る羽目になることが多いというのだ。

 中古物件の売買成立価格は、もっとも多いケースで「希望価格>初出売り出し価格>査定価格>売買成立価格」となっている。不動産価格上昇局面では、たまに「希望価格>初出売り出し価格≧売買成立価格>査定価格」となる。

 もっとも、買う側は「売り出し価格からどこまで安くなるのだろうか」と思い物件概要を見ている。したがって、いつでも価格下落の圧力を受けることになる。

高く売るための無理は禁物
結局は安売りで損をする

 ここで、実際の事例を見てみよう。

 田中氏(仮名)は今年43歳。ベンチャー企業で執行役員を務めている。今年の春、それまで住んでいた分譲マンション(所有)から一戸建て住宅を購入し、引っ越した。東京23区に住んでおり、新たな一戸建て住宅は、かつてのマンションから徒歩で移動できる距離の場所だった。

 引っ越そうと思ったきっかけは、2人の子どもが大きくなり、それぞれ一人部屋が欲しいと言い始めたからだった。夫婦の部屋も含めて3LDK以上の間取りの家に引っ越そうと検討を始めた。子どもの学校のこともあり、近所で探したようだ。

 しかし、田中氏もぶち当たったのが「今のマンションは、どれくらいの値段で売れるのだろうか」という不安だった。

 マンションの住宅ローンはまだ残っていた。売却で得たお金からローンを返し、その残金を新しく購入する一戸建ての資金や諸費用に充てる計画だった。