「年上の部下」が、
不健全な不満分子だったら?
もちろん、「刀」を抜くためには、状況を慎重に見極める必要があります。
そして、「ここぞ」というときに一気に片付ける。その巧拙が上司としての力量といっていいでしょう。私が、これまでに出会った政治力のあるビジネスマンは、そのキャリアのどこかでこうした局面を巧みに切り抜けています。
中堅商社で総務部長を務めている黒川さん(仮名、52歳)も、その一人です。順調に社内キャリアを積み上げてきた人物で、同期トップでの役員就任も噂されています。その黒川さんに、課長時代のエピソードを聞きました。
彼は、新卒で総務課に配属後、経理課も経験。その堅実な仕事ぶりと、人望の高さが評価されて、若くして古巣の総務課長に昇格しました。はじめての管理職。部下と良好な関係を築くために、細やかな配慮をしながら慎重に仕事を進めたそうです。その甲斐あって、若手社員はモチベーションも高く、自分を信頼してくれるのが目に見えてわかったといいます。
しかし、「悩みの種」がありました。“年上の部下”であるAさんです。
Aさんは入社以来、そのほとんどを総務課員として過ごしてきました。会社に対する斜に構えた姿勢が嫌われたのか、昇格が遅れ、当時は係長。しかし、いわば“総務課の主”的存在として、職場では一定の影響力をもっていました。
黒川さんにとっても、新入社員のころに席を並べた先輩です。Aさんに敬意を示す姿勢を崩さず、細かな指示・指導も極力避けるとともに、通常業務については、Aさんの判断を尊重しました。
しかし、“年下の上司”の出現を面白く思わなかったのか、Aさんは、黒川さんに対して距離をとり、会議などでも、ことあるごとに足を引っ張るような発言を繰り返したそうです。陰で悪口を言っていることが耳に入ることもあり、黒川さんとしても対応に苦慮していました。
そのうち、仕事に支障をきたすことも増加。Aさんが、他部署からの重要な伝達事項を黒川さんに報告しないまま対応したり、部下に独断で指示を出すことで混乱が生じるようになったのです。これは見過ごすわけにはいかないと、黒川さんはAさんと面談。「理」と「情」を尽くして、適正な業務フローの徹底をお願いしました。
不健全な不満分子を「無力化」する方法
そして、1年後──。
その間、折をみて、黒川さんはAさんとの関係改善を働きかけましたが、それでもAさんは態度を変えませんでした。
そこで、黒川さんは一計を案じました。