山口源兵衛
写真 加藤昌人

 今年3月、若い世代の支持を集めるセレクトショップのユナイテッドアローズと組み、「傾奇者達之系譜(かぶくものたちのけいふ)」と名づけた男物の着物ショーを仕掛けた。

 レッド・ツェッペリンや和太鼓に乗って闊歩する、ロッカーの内田裕也に舞踊家の田中泯。個性豊かなモデルたちが纏(まと)ったのは、紅や紫といった鮮やかな色と、存在感のある金や銀の光沢、奇抜で大胆な柄や文様だった。

 「江戸時代の奢侈禁止令以前、桃山時代には傾奇者、室町時代には婆娑羅(ばさら)という風潮があった。戦渦に生き、死を求めさ迷う宿命にある男たちは、時代を挑発するように競って着飾った」。大地のエネルギーを吸い上げ、血のにおいを漂わせる奔放な生を再現したのだ。

 京都に270年続く老舗の帯問屋「誉田屋源兵衛」に生まれた。西陣に帯がなくなるまで現金で買い付け高値で売る。十代目を襲名すると、そんな先代の商売を覆すように帯の制作に乗り出した。

  その独創性は際立ち、日本原産種の幻の蚕「小石丸」の糸を復興するなど伝統美を追求する一方で、原始布や螺鈿や箔など、従来にない材料を織り込む革新に挑む。270年の血の記憶をたどるように、溢れる好奇心に突き動かされるままに、想像のなかの色や質感を表現する素材を求め、世界中を飛び回る。

 目の前に広げられた新作の帯には、長良川の古い魚網が織り込まれ、黒蝶貝とオパールが埋め込まれた勝虫(かつむし)(トンボ)がそれを突き破り、飛び立とうとしていた。源兵衛の血が傾(かぶ)いている。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 遠藤典子)

山口源兵衛(Genbei Yamaguchi)●帯制作プロデューサー 1949年生まれ。80年、元文年間(1736~41年)創業の帯問屋「誉田屋源兵衛」十代目襲名。2002年「かぐやこの繭小石丸」展で日経優秀賞受賞。03年日本文化デザイン大賞受賞。現在は文様の体系化に挑む。