例えば、インドでは赤ちゃんが寒くてお風呂に入れない冬の時期にマッサージをして体の汚れをとったり、骨や筋肉を強くしたりする習慣がある。こうした伝統的な子育て術は赤ちゃんにとってもよいのだが、一方で育児用品の利用や、衛生面に対する意識の啓蒙が進んでいないなどのデメリットもある。

 商品を販売する以前に、まずは母親たちに対して教育をしていかなければならないのだが、伝統的な育児方法と合わないために受け入れられないことも多い。インドでは母親のおっぱいで子どもを育てる母乳育児を強く推奨する風習がある。だから、一見それに反するようなこと、つまり主に粉ミルクを溶かして飲ませる哺乳瓶を販促する企業はネガティブに捉えられるリスクもあるのだ。

 ほかにも、哺乳瓶の消毒の方法など、教えなければならないことは山ほどある。鍋に水を入れ煮沸することや、電子レンジでスチーム消毒をするなどの方法があるが、インドに限らずアジアの新興国では電子レンジが普及していない。煮沸消毒の場合は、15分間は煮沸しないと殺菌されないのだが、お湯を沸かしてそれを哺乳瓶に入れて濯いで捨てるだけで終えてしまう母親もいる。十分な消毒方法が啓蒙されていないのだ。

 しかし、母親たちにヒアリングをすれば、粉ミルクに対する一定の需要は存在する。仕事に復帰したいと考える人もいれば、母乳の量が足りない、栄養が足りない、乳首になんらかのトラブルを抱えているなど、身体的な事情を抱えている人もいるからだ。

 そこでピジョンは全国各地にある約500の病院と連携し講座を行うことにした。母親や看護師を対象としたワークショップがメインの活動で、母乳を出しやすくしたり、冷凍したり、出すぎてしまったときに使えるパットなどあくまで母乳育児を推進する商品を中心に紹介し、その一環として哺乳瓶も紹介。希望する母親はサンプリングも行っている。

 加えて、地域レベルで行われるMother’s dayやChildren dayのイベントなどへの協賛による商品の紹介や、ウェブサイトなどでの情報発信も。こうした地道な活動が奏功して、ようやくインド国内でブランドが浸透してきたのだ。

 また、小売り事情の変化も追い風になってきた。インドはかつて、小売店のほとんどが伝統的なパパママストアで外国企業の信頼性 の高い製品を置けるような場所が限られていた。しかし、ここにきて大型ショッピングセンターがあちこちに建つなど、ようやくその状況が変わりつつある。本格進出から5年、ようやく中国同様に、ピジョンが本領を発揮するチャンスが訪れつつある。

(岡 徳之/Noriyuki Oka Tokyo & 5時から作家塾(R)