サービスに手を抜くと社員が離反していく

星野佳路(ほしの・よしはる)           1960年、長野県軽井沢生まれ。慶應義塾大学経済学部を卒業後、コーネル大学ホテル経営大学院修士課程修了。その後、日本航空開発、シティバンク等を経て91年に (株) 星野リゾート代表取締役に就任。圧倒的非日常感を追求したラグジュアリーホテル「星のや」、小規模温泉旅館「界」など、現在33か所の宿泊施設、スノーリゾートを展開。主な関連書籍に『星野リゾートの教科書』『星野リゾートの事件簿』など。

川上:「クレームが出るぎりぎりまで」にサービスの質を落とせば、コスト削減につながるという考え方ですか?

星野:そう。クレームが出たらアウトでしょ。その途端に、クレームの対応に追われ、お客様の減少も招くなど追加コストが発生してしまいますから。でもそのぎりぎりなら、コスト削減になるという概念です。

川上:それが現場の偽らざる本音なんですね……。

星野:ええ。でも、この考えには2つの問題点があります。
 1つは、宿泊したお客様に“モヤモヤ感”が残ること。「クレームが出るぎりぎりの対応」だから、感動はしない。でも、文句を言うほど悪くないんです。このどっちつかずな感じが“モヤモヤ感”の正体です。
 過去30~40年の旅行者の推移を見ると、海外旅行が一気に伸びる一方で、国内旅行は停滞しています。僕は、その要因は「クレームが出るぎりぎりの対応」にあると思っています。

川上:2つめの問題は何ですか?

星野:社員が離反することです。ホテル業界で働く社員は、職場環境や給料も大事だけど、何より励みになるのがお客様に褒めていただいたときなんです。「ごはんがおいしかった」「リラックスできた」「感動しました」「また来ます」。こう言われたときに、「自分はいい仕事をしているんだ」って誇りに思える。その肝心なところが「クレームが出るぎりぎりの対応」をしていると犠牲になるんですよ。

川上:社員の離反が続いたら、人材獲得に大きな影響が出ますね。